死神の帰る場所
本編
人でなしの死神01

2355のオープニングが流れて、反射的にモダンな壁掛け時計を見上げた。
23時55分。
そりゃそうだ。

「わがはいはねこ〜」

口ずさみながらいそいそと帰宅の準備を始める。


ローテーブルに散らばっていた私物を片付けていく。
冷たくなったコーヒーが半分残ったマグカップは洗って。
食べ散らかしたチョコレート菓子の包装はコンビニ袋へ。
読みかけの文庫本に栞を挟み。
その全て鞄にしまった。

ぐるりと見回した室内は、相変わらずモデルルームのように美しい。


「……午前0時をお知らせします。ピ。ピ……」


アナログの時計の画像を映し出していたテレビを消して、リモコンを置く。


今日は早く帰れる。

正直ほっとした。
彼が帰ってこないことに安心する。

初対面の時のように彼の事を“怖い”と思っている訳じゃない。
顔を合わせるだけの黒服さんたちには、相変わらずびくびくしてしまうけど。

麻痺しているのかもしれない。
だけど、彼が私に危害を加えることはない、と信頼しているのも事実。


そうはいっても、この状況はあまり好ましくはない、と思う。
だからこそ、こうして私物はすべて持ち帰る。

この場にいるのは仕事だ。
出向という名目で、私はここに出勤している。
辞令で、明日からは来なくなるかもしれない。
いつでもそうなって良いように。
……一日も早くそうなれば良いのに。

そんな思いがある。


もう一度壁掛け時計を仰ぎ見て、天井を指している針を確認する。
午前0時までに彼が帰宅しなければ、私は解放される。
そういう契約だ。

帰りにコンビニでアイスでも買って帰ろうかな。
甘い妄想をしながら体を反転させた。

「うゎ!」




目の前に死神が立っていた。


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