死神の帰る場所
その後の日常
いつか地球の王子様が02

静かに停車した車とシフトを操作する音に、背もたれに預けていた頭をもたげて目を開いた。

「ママ、着いたよ」

エンジンをかけたまま運転席から出て、私の為にドアを開いてくれた亀岡を睨み付ける。

「どこに着いたのよ」

「ん? ぼくんち」

「冗談は勘弁して頂戴」

疲れているんだから。

「家に帰るわ」

「うん、送るよ。その前に、少し寄っていって」

「別の日じゃ駄目なの?」

駄目、と微笑む亀岡に溜息を吐く。
これじゃ拉致と変わらないじゃない。

そう思いながら見上げた亀岡の顔からは何を考えているのかうかがえない。

……結局送ってもらわないといけないんだから……。
言う通りにするしかないのよね。

溜息を吐いて車から降りる。

ああヤダ、こんなに溜息ばかりしていたら、僅かな幸せすら逃げてっちゃうわ。


マンションの一室は極端に物が少なく、よく言えばスタイリッシュ、そうでなければ殺風景。
多分、亀岡の本宅ではないのだろう。

「ママ、着替え、どうぞ」

通された部屋で待っていると、別室でごそごそとしていた亀岡が何か包みを持ってきた。
その言葉に思い切り眉を顰めて何か言い返そうと思ったが、やめた。

「お風呂はあっちだよ」

「……ええ」

素直に頷いて、バッグを持ったまま浴室へ向かった。



「ごめんね」

戻ってきた私に、亀岡が微笑んでコーヒーの香りの湯気が立つマグカップを渡してくれる。
ありがとう、と呟いて暖かなカップを両手で包んだ。
促されてソファに腰を下ろすと、正面に亀岡が座る。

「何かあったの?」

着替えと一緒に渡されたメモ。
着ているものとバッグを浴室に置いてくるよう書いてあった。

「うん、店でね、盗聴器を見つけた」

「そう」

その位は想定内。
そんなに驚くことはない。

「事後報告で申し訳ないけど、ママの家も確認した」

「乙女の部屋に無断で入ったの?」

ちらりと睨むと、その顔で言われても、と笑われた。
着替えた時に化粧も落としてきた私は、完全に男だ。
男臭い、男。
どこもかしこも角ばった厳つい体格。
精悍、と言われる顔つきは、女性らしい部分など一欠けらもない。

化粧をしたってそれは変わらないけれど、化粧をすれば、「オトコ」ではなく「オカマ」になれる。

「あったの?」

「あった」

「そう」

寝に帰るだけの部屋だけど、知らない誰かが侵入したのだと思うと薄ら寒い。


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