死神の帰る場所
その後の日常
いい大人と公私混同03

ペットボトルの水を渡すと、へにょりと藤本さんの顔が恥ずかしそうに崩れた。

リビングのソファーで有無を言わさず犯した。
酷くしたという自覚はある。
それなのにその事を責めるどころか、恥ずかしがるとは、本当にこの人の行動は読めない。

「っはぁ、おいし……」

冷たい水を嚥下するのど仏が上下する。
そのしこりに歯を立てたいという不埒な欲望を腹で笑う。
尽きることのない欲求は、我ながら興味深い。


「うぅ、また、朝起きられなさそうだ……」

「寝ていればいい」

「う〜」

唸る藤本さんの頭を撫でると短くて硬い髪の毛が指を擽る。
その心地よい手触りに目を細めると、見上げてくる瞳が眇められて口が尖った。

「だから、良くないよ、こういうの」

「?」

「私たちは、その、さ……おつきあい、している、訳だよね?」

視線をちらりと逸らして言いよどみながら、微かに顔を紅潮させる。

……この人は……。

いい年をして、そんなことで赤らまないで欲しい。
つい、その顔を歪ませたくなってしまう。

閉口しながらもこくりと頷いて見せると、ふわりと少し厚い唇が綻んだ。



……涙もいいけれど、この顔も悪くない、か。


「……うん。……それなのにさ。私は今、仕事中、なんだよね。なんか、それって、良くないよ」

「……」

「もうさ、派遣とか、仕事とか、そういうのじゃなくて、ここに来たら……いけないかな?」

「……」

「契約は終わり、に、しよう?」



……なるほど。




俺の早とちりか。




少しの罪悪感と、大きな驚きが心に広がる。

余裕がなかった。
頭に血が上った。
必死だった。


藤本さんの言葉を受けた自分の行動を振り返る。

これは……愉快な現象だ。


にやり、と思わず口角が上がる。


「それは、できない」

「え……なんで……?」

少し暗い顔になってしまった藤本さんの首筋に唇を寄せる。
情事の後の少し汗ばんだ肌。
藤本さんの香り。

「藤本さんが、朝、起きられないから」

「……ん……」

「シたら、起きられないよね。そうしたら仕事、行けないよ。このままなら昼まで寝られる」

「っ!」

塩辛い肌をべろりと舐めると、真っ赤になった藤本さんの肩が跳ねた。
それは、だから、休みの前とか……ともごもご言っている藤本さんの口を塞ぐ。



駄目だよ、藤本さん。
あなたは俺のものなんだから。

それを学ぶ時間がたっぷりと必要なんだから。


ね?


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