さあ、うたおう
本編


ちゅ。

唇に優しく触れる感触。


「愛してますよ。アキラさん」

「ん」

うるせえな。
知ってる。
分かってる。


くそう、微笑んでるんじゃねえよ。
自分のクソ小ささが嫌んなる。


「ユーさんは、違う」

「はい。あの人だけ長いですよね、お付き合い」

「そういう意味じゃねえ」

お付き合いとか、仲が良いとか、ああ、完全に誤解してる。
そりゃ目の敵にもするわな。
他の誰かとのことを責められたら誤解だって言い返せねえだろうけど、ユーさんだけは、違う。

「シてねえよ」

「……」

「だってオレら二人ともネコ専だもん」

できねえの。
できなかったの。

あの日は確か、男の取り合いで喧嘩してる間にその男に逃げられて、お前のせいだと罵り合って、責任とれよとかそんな売り言葉に、お前こそ責任とれよって買い言葉の勢いで、そのままホテルに行ったんだぜ、アホくせえ。
喧嘩のテンションでズリあって、テク競い合って、お互い完立ち。
そこまでは良かった。

イザいたそうって瞬間。

オレは相変わらず吐き気してくるし。
ユーさんはゴム付けた瞬間に萎えるし。

超未遂。

アホくせえ。
そのままマリカーやって帰ってきた。
ゲームは盛り上がったし、まあ、それがきっかけで一緒に飲むようにもなったけど。

だからさ、そう言う仲の良さは、1ミリだってない。

「……ネコって……彼、サクって彼は?」

「アレは特別、なんだってさ」

ユーさんが自分の性癖を隠すようになったのは、サクの為らしい。

健気で女々しいユーさんに敬意を表して、オレだって誰にも言わないつもりだったんだけど。
悪いね、ユーさん。
自分のが大事だわ。

オレも深雪に必死だからさ。


「だから、確かに、ホテルは行ったけど、何もない。……としか、言えねえや」

信じて欲しい。
けど、信じてくれ、だなんて言えない。

深雪の肩に、額を押しつける。
なあ、信じてくれるか?

「気持ちは?」

「気持ち?」

「恋愛感情」

「ハ?」

「“ユーさん”に恋愛かn」

「あるわけねえ」

超即答できる。
そんなケッタイな感情、抱いたことは一度だってねえよ?

恐怖しか感じない言葉にがばりと顔を上げると、上機嫌に微笑む深雪がいた。
キラキラのイケメンスマイル。


……機嫌が良いのは結構だけど。
何がどうしたから機嫌が良くなったのか、本気と書いてマジと読んじまうくらいには分からない。


「アキラさん」

「あ?」

「愛してますよ」

「……ん」


いい加減、ウザいよね?
このやり取り。

ああ、畜生。

でもだからって、やめろなんて、口が裂けても言えねえんだよ、オレには。


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