さあ、うたおう
本編


気分がいい。

爽快。

ふ。
今日は発泡酒じゃなくてビールいっちゃうよ?
贅沢しちゃうよ?


いいね、いいね。
いい日だ。
金ぴかに輝くさば缶も買っちまった。

超贅沢。


「ま」

「お邪魔します」

「……ってか、オマエ何で付いて来てんの?」

「え? 今更ですよ?」

「あ」

深雪が玄関口に荷物を置く、ガサガサゴトリという派手な音で我に返った。
そうだよな。
一緒に買い物して、夜何食うかとか話してて、荷物持たせて。

オレ意味わかんねえ。

「……帰れば?」

「美味しいオツマミ、作りますよ?」

「……」

それは、まあ、あってもいいか。
なんて甘い顔をしたのが間違いだった。

「っ! オイ!」

「あなたを美味しくいただいてから、ってのは定番ですよね?」

「ちょ! お前は! 玄関で盛る性癖か!?」

「どこでも盛りますが」

「それは……若ぇな」

「そういう問題じゃないですけどね?」

玄関の冷たい扉に押し付けられて、キス。
ワザと外して来やがった。

深雪の少し冷たい唇が口の端に触れる。
熱の篭った瞳が、至近距離でオレを見つめる。
はあっと零れる吐息が、ああ、もう、エロいって。

「あの人、何なんですか?」

「あ?」

「“ユーさん”」

「ああ」

しゃべるたびに触れる唇の先がくすぐったい。

「何……飲み友達?」

「仲良いですよね」

ふは。
相当目の敵にしてんなあ。
まあな、とニヤリと笑ってみせる。

「二人でホテルに行く仲、ですもんね」

「ハ? ……え?」

ホテル?
え?

正面の形の良い目が細められて、鋭さを増している。

ホテル……ユーさんとホテル?
……って、


…………あの事か?
もう、何年も前の、ノリで行った、あの時の。

あんな昔の。

一度きりの。

「なんで……?」

「アキラさんが関係を持った男の人、多分、全員知ってますよ?」

「…………うわ」

「ヒきます?」

「まあ。オレ覚えてねえし」

ほんの少し思い返しただけで、人には言えないような事がいくつも飛び出してくる爛れた性生活。
深雪のキモチ悪さよりも、オレの方がよっぽどキモチ悪い。
我ながらサイテイ。
うへえ、と顔を顰める。
と同時に、すっと寒気が走った。

自分でも最低だと断言できる。
なあ?
お前も、そう、思うよな?
きっと、最低だって、思ってるよな?

こんな事で……後悔する日が来るなんて思わなかったんだよな、オレ。

「……お前さ…………それでいいのかよ」

「何人かは殺そうかと思いました」

「イヤ、そっちの意味じゃなく」

話が通じねえ野郎だな?

頭痛くなりそう。
これでも結構、真剣に、……ビビってんだから。
やめてくれ。


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