さあ、うたおう
本編


細かく震える体を見下ろして落ち着かない様子のユーさんに、こんな場合だけれど、ちょっと笑ってしまう。
そんなに心配ならば、抱きしめてあげればいいのに。
そわそわと動く手が、それでも何かに阻まれているかのようにサクの体には触れない。

見てるこっちがもどかしいわ。

大事な人が泣いてんだろ?
抱きしめてやれよ。

こうして体温を感じているだけで、安心できるんだから。


おっと……。

アイタタ。

自分の思考回路がイタイタしい……。



「もう、十分謝ってもらったし。怒ってないよ?」

というか、そのさ、可愛そうになるじゃん?
いじめてるような気分?
子供に泣かれるのは、ちょっと趣味じゃない。

タレコミなんてなくったって、ああいう輩は、来る時は来るんだし。
撮られて困るような事をしなきゃいい話なんだし。

「もういいよ? いいだろ? なあ、おまえも」

「……僕は許しませんが」

「深雪」

空気読もうね?
大人なんでしょ?

じっとりと見上げると、真顔が見下ろしてきた。

ち。
近いと身長差が際立つぜ

「ですから、アキラさんが許すのは認めます。彼だけが悪い訳じゃないのもわかってますよ? でも、僕は許せない」

「あのなあ、深雪、……ああ、そうだ、じゃあユーさんを恨んどけ」

「キラ?」

やっとサクの肩に手を置いたヘタレに、ニヤリと笑いかける。

「サクはヤキモチでやったんだろ? ユーさん、さ、ワザと浮気な真似して見せて、ヤキモチ焼かせようとしたよな?」

「キラ……」

ああ、そう。
そうだった。

睨み合って、威嚇する。

オレとユーさんはそもそもこんな関係。
お互い睨み合って、コケ落として、相手を出し抜いて。

「だから、ユーさんが悪い。ユーさんの所為。サクは悪くない、分かったか?」
 
分かりました、と頷いた深雪は、そもそもユーさんのこと嫌いな訳で。

は!

ご愁傷様。
超嫌われたよ、ユーさん。

地味にショックだね?
ショックだよな?
だって、実は結構、深雪のことタイプだもんね?



なんせ、ユーさんとオレは、同じ男の趣味してるんだから。


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