さあ、うたおう
本編


うん、雰囲気サイアク!

ダネ☆


背後から腰に回された深雪の両腕が、ぎゅうぎゅうを腹を締め付けて苦しい。
目の前のユーさんの微苦笑から見るに、相当スゲエ顔してんだろうな、お前。

ごめん、ちょっと笑うわ。


まあ、今日は喧嘩をしにきたわけではない、ハズ。


ユーさんに呼び出されて、平日の昼間にこんなマチナカまで出向いてきた。

オレにはどうも場違いな若者向けのショップ。
深雪の背中について気後れしながら足を踏み入れると、そこで「社長」と呼ばれるユーさんが出迎えてくれた。

応接室? VIPルーム? に通された。

個室に入った途端、オレを抱き込んだ深雪に呆れてしまう。
そんなにしなくたって、とって食われやしないのに。
ポンポン、っと深雪の腕を叩く。
何がそんなに怖いんだろうね? この若者は。


「あ」

サク、くんだっけ?
ユーさんの恋人。

可愛くて仕方ないらしい、若い恋人。

「…………」

カウンターのスツールに腰を下ろしたままチラリとこちらを見たサクが、ふっと目をそらす。
その目は真っ赤に潤んでいて、頬に濡れた髪の毛が一筋張り付いていた。

「サク」

「っ」

ピクリと揺れた細い肩が気の毒に思える程、感情を殺したユーさんの声が鋭く空気を揺らす。

「サク」

「……はい」

のろのろと、ゆっくりと、小さな体がオレらの前に移動してきた。
俯いた顔は前髪で隠れてしまっていて、どんな顔をしているのか、想像することしかできない。


「……な……い」

「え?」

「ごめ、ん、な、さい」


途中から嗚咽に変わった前置きのない謝罪に戸惑う。
何度も何度も繰り返される、ごめんなさい、の意味がわからず、サクの小さな体の後ろに寄り添ったユーさんを見つめた。

「キラのネタ、サクが雑誌に流したんだよ」

「ねた……、ああ!」

ごめんな、と重ねて謝るユーさんの声を聞きながら、頭の中で色んなことが繋がっていく。


バーでオレを睨んでいたサク。

絡んできたサク。

サクの首を絞める深雪。

深雪に謝罪を要求することもなく、酔っ払って謝るユーさん。

雑誌に載ったと謝る電話越しのユーさんの声。


ああ。
そっか。

すとん。

と、ああ、そうだったのか。
と思った。


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