さあ、うたおう
本編


今日はね、きっと、20年ちょっと生きてきた中で一番嬉しい日だと思う。



あなたを知った日が二番目。

テレビの中で微笑むあなたに目を奪われた。
その歌声に、零れる涙が熱く感じた。



三番目は、あなたに会えた日。

声をかけて、初めて話をしたあの日。
緊張で冷たくなった指先がカタカタと震えていた。



次は、あなたが僕の拙い手紙に返事をくれた日。

暫く開封すらできなかった、懐かしい思い出。




あなたと繋がった日。
あなたに触れられた日。
あなたの顔を見られた日。

嬉しくて、幸せな日々は、全部あなたから貰っている。



「声楽を専攻したのも、劇団に入ったのも」

思わず強い力で抱きしめてしまった小柄なあなたは、腕の中で不満そうに暴れる。

「憧れの人に近付きたかったから、なんです」

「ふうん?」

どうにか逃れようと気のない相槌を返すあなたに、思わず笑いが漏れる。

「あなたに近付きたくて」

「……ハ?」

「あなたと同じ所に立てば近付けるかなって、思ったんです」

「……ハ?」

ポカンと僕を見上げるアキラさんにキスをする。
唇が離れた所で、僅か5センチ先の瞳を覗き込んだ。

「冗談とかじゃないですよ? 本気で、『おにいさん』目指してました」

「ナニ、ソレ」

みるみるうちにアキラさんの目元が赤く染まっていく。
うるりと、目が潤む
ゆらゆらと、揺れる瞳が堪らない。

可愛い。
可愛くて仕方ない。

「もう十分近付けたので、必要ないかなって、……思ったんですけど」

「っわ! う?」

「アキラさんにそんなに褒めてもらえるなら、続けようかな、俳優」

僕の膝に跨った軽い体を布団に押し倒す。


うん、やっぱり、この体勢が一番良い。

ずっとこうしてあなたを見つめていたい、なんて、口が裂けても言いませんけど。
思うだけなら自由ですよね?
思ってますよ。
いつも。


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