「
会長^2」
会長襲われた
04
にやり。
笑うと鏡の中の像も笑う。
「私、だな」
「左様にございます」
頬をつまんでみる。
瑞々しい肌は、柔らかい。
ああっ!
なんと言うことだ!
あまりのことに、自分の目を疑う。
「髭」
「はい?」
「髭がないな」
「ございません」
「近頃になく、上手く整えられたんだ」
「それは、残念でございましょう」
大事に育てた口髭が綺麗さっぱりなくなっている。
もともと、そう濃い方ではない髭をあれほどまでにするのに、二カ月……いや、三カ月近くかけたのだ。
毎日手をかけて、我が子同然だったのに。
すっかり、綺麗さっぱり、毛根すら見あたらない。
しばし、ショックに打ちひしがれる。
心得た執事は、主人が回復してきた所で動きを再開した。
「恐れながら、藤村様をお通ししてよろしいでしょうか」
「ん? 徹クンが来てるのかい?」
「はい。一度旦那様を診察していただきました。」
「ああ、そうか。いいよ。通して。」
心の中で大事な髭たちを弔いながら応える。
君たちと過ごした日々の事は忘れないよ。
ありがとう。
「藤村様とご一緒に皆様もお控え頂いているのですが、いかが致しましょう」
「みなさま……」
控えていただいているだろう面々の顔が浮かぶ。
あー……。
溜め息が漏れてしまった。
「お前が言って聞くような人たちじゃないだろう。一緒で構わないよ」
「はっ。ありがとうございます。」
きっちりと腰を折った執事が秘書室へ続く扉から姿を消す。
うん、まあ。
遅いか早いかの違いだ。
嫌なことは、なるべくまとめて先に済ませてしまうのが得策。
いや……。
いやいや。
失敗だったかもしれない。
今更ながら後悔する。
面倒臭い。
むっくり起き上がる。
逃げよう!
善は急げだ!
真っ黒な執務机が私を呼んでいる。
こっそり。
こそこそ。
執務机の下に潜り込む。
同時にノックの音が響いた。