会長^2
会長襲われた
03

いやいや、悔いばかりだ。



瞼を通して伝わる光に誘われて、僅かに目を開く。
途端、眩しさに瞳が焼かれた。

ぱちぱち。
瞬く。



ぼんやり涙が滲んだ視界には、見覚えのある天井が像を結んだ。

一昨年まで毎日通った社長室の天井だ。



全面ガラスから差し込む日差しが、重厚な執務机に降り注いでいる。
厚みを感じさせないクリアなガラスの向こうには、名残惜しそうな積乱雲と、突き抜けるような青い空。
応接用のソファも頗る寝心地が良い。



んー。

これを知らなかったなんて、勿体なかったなぁ。



そろそろおやつ時かしら。

現役時代に秘書に用意させたおやつの数々を思い出して唾液腺が痛い。

ん?



……腹が減っている?



「ぐおぉぉ……」



……おお……。



物凄い音で腹が鳴った。

致し方ない事とは言えども、ちょっと恥ずかしい。
思わず周りを見回してしまった。



「……。」



「……。」



あー、バッチリと目が合ってしまった。

「左ノ助……」

出入り口の脇で控えていた執事の無言がいたたまれない。



「……左ノ助?」

呼び掛けに返事をしない執事に違和感を覚える。




ん?



「何だか声がおかしくないか?」

喉にやろうと持ち上げた手を、ソファの脇に跪いた左ノ助が包み込んだ。

音もなく素早く移動するとは。
いつもながら、忍者じゃないかと思う。



「しぐれ、さま?」

珍しく、執事の言葉の歯切れが悪い。
間近に見ると、顔色も良くない。
いつもの余裕泰然とした表情が崩れて、疲れが滲み出ている。



「どうした?心配かけたか?」

首を傾げる。

「犯人はどうした?報告を頼む」



腹の音はさて置いて。
少しだけ威厳を取り繕う。

自分の誘拐事件の顛末くらいは把握しておきたい。



「旦那様。」

「うん?」



手をそっと胸の上に下ろされて、握られたままだったことに気づいた。

何だかちょっと湿っぽい。
左ノ助の汗だろうか。



「まずはこちらをご覧下さい」

懐から出現した手鏡を顔の前に差し出される。
少女趣味な手鏡が恐ろしく似合わない男だ。



そこには、青年──と言うには、丸い頬に幼さを宿した見覚えのある少年が写り込んでいた。


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