「
会長^2」
会長襲われた
02
すぐ脇でカチャカチャと作業する音がする。
口汚く叫びながら動き回っている二人の足音に紛れてはいるが、不吉な予感が首筋を這い上がる。
こういう予感は的中し易い。
ぐいっと左腕を引かれた。
背中で括られた親指に糸が食い込む。
「ぐっ」
思わず声が出てしまった。
痛いのは嫌いだ。
「ぅお!?」
手の力が緩む。
「何だ、おっさん気付いてたのかよ」
「ふんふん」
首肯と鼻息で返事をする。
三人の中では、リーダー格なんだろう。
声に落ち着きや自信が感じ取れる。
それにしても若い。
声が若いし、コロンの付け方が若い。
「まあ、いいや」
再び腕をつかまれる。
良くないぞ。
結構痛いんだ。
びりっ
び────っ
裂帛音と共に微かな振動。
袖に隠れていた二の腕に外気が触れる。
!
絹のシャツが!
下ろしたてなのに!
今日の為に!
「あんがぁっ!」
抗議の声を上げるが、今度はシカト。
手が緩むことはなかった。
「お前ら、ちょっと来い」
残りの二人の気配が近付く。
「おっさんの腕、固定してろよ」
「了解っす」
「……んぐ」
うつぶせに倒されると、その上から容赦な力で腕を押さえつけられた。
頬が埃っぽい床に擦れる。
猿轡が痛いし、胸が圧迫される体勢が苦しい。
マズい状況だ。
注射器による投薬の予感がする。
注射は嫌いです。
──いやいや、そんな場合ではないか。
「悪いな、おっさん。せめて、楽に逝けるらしいからよ。」
「うんむー」
非力なおっさんには二人がかりの拘束をはねのけるような芸当ができるはずもない。
火事場の馬鹿力が発揮される気配もない。
ちく
「むー」
いーたーいー。
なす術なく。
すんなりと。
あっという間に。
投薬されてしまった。
「おら、行くぞ」
「車は裏手にあります」
「多分、そっちはマズい。窓から川沿いに下る」
「えーマジっすか」
「おう」
騒がしい三人の足音があっという間に離れて聞こえなくなった。
いや、耳がおかしい。
耳栓をしたように自分の鼓動ばかりが響いて聞こえる。
体の向きを変えようとするが、うまく筋肉が動かない。
痛い。
痛いじゃないか!
皮膚が、筋肉が、骨が痛む。
いや、暑いのかも知れない。
体の内側が溶でていくようななんともいえない感覚。
体ががくがく震える。
ああ……。
流石に私も終わりなのか……。
思考も鈍ってきた。
我が人生に、いっぺ、ん……の、悔い……