会長^2
会長襲われた
01

目隠しで真っ暗な視界。
拘束されて動かない手足。
耳を澄ませると微かなモーター音。
それ以外は何も聞こえない。



全く……困ったことだ。
何時間こうしているのだろう。
覚束ない意識が時間の感覚を麻痺させている。



観劇するはずだったオペラに思いを馳せる。

人気歌手の共演。
オーケストラも超一流。
数日しかない日本公演は、今日が千秋楽だった。

この日を楽しみにしていたのに。
何て惜しい……。

溜め息は猿轡に吸い込まれる。



さて、どうしたものかなぁ。


──海外公演のチケットなら、まだ手配できるだろうか。

お。
そうだ、そうだ。
確かヨーロッパ公演はもう一度あった筈。

パリなんか暫く訪れていない。
旅行も兼ねて行くのはどうだろう。

うん、それは良い考えだ。



素敵な思い付きににんまりと相好を崩すと拘束具が肌に擦れた。
地味に痛い。



痛いのは嫌いだ。



……そう言えば。

動ける範囲で体を動かしてみる。
手足は痺れていて判然としないが、特に傷めた箇所は無いように思う。

ふむ。

おそらく、薬品を嗅がされたのだろう。
先程まで二日酔いのようにぐらぐらと気分が悪かった。



背後から布で口を塞がれたのを覚えている。

覆い被さってきたのは上背のある人物だった。
反射的に取り付いた腕には筋肉。
それなりに体格の良い男。
……女かもしれないが。
あんな腕の女性はちょっと嫌だ。



とにかく、今のところ危害は加えられていない。


面倒な相手だろうか。
参ったなぁ。

手が自由ならば頭を抱えているところだ。



と、突然乱れた複数の足音が近付いてきた。

何か動きがあったのかしら。
少しだけ鼓動が早くなる。



ガチャ



金属製の錠が開く、酷く安っぽい音が響いた。
響き方も安っぽい。
コンクリートの壁なのだろう。



いかにもなシチュエーションに、思わず吹いてしまいそうだった。
危ない、危ない。



バタンと馬鹿みたいに大きな音を立てて扉が開かれた。
一人、二人……三人の足音が荒い息遣いととも室内に侵入してきた。

「おいっ、早くしろ」

「どうするんだよっ」

「知るかっ」

「あーもう、うるせぇなっ」

「だいたいお前が……」

「とにかく、ずらかるのが先だ!」

語気荒く言い争っていた声の一つが直ぐ傍へ寄ってきた。
どきん、と心臓が跳ねた。


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