会長^2
会長襲われた
19

はっ、と一つ息をついて呼吸を整えた社長秘書が、優雅な動作で腰を折った。

「失礼な事を申し上げました。お許しください。」

「うん」

はいているハーフパンツについては私の預かり知らぬ事ではあるけれど。
指摘はもっともだ。
そうなんだけど──

「朔夜クン、ごめんね? 心配、かけたね?」

「──いえ。」

端から見たら冷静そのものな朔夜クンだけれども、取り乱している。

私の所為だよね。

「反省してます」

本当に。

「はい」

秀麗な眉を僅かに歪めた朔夜クンに睨まれた。

「せめて社長が使いものになるまでは、会長には元気でいらしてもらわないと困りますので」

うんうん。
言い方はともかく、労ってくれてるんだよね?
浩太郎がしょんぼりしているから、後でちゃんとフォローするんだよ?

「ちんくしゃにおなりでも、せめての取り柄なんですから、仕事くらいはおできになれますよね?」

うん。
なんだか私もしょんぼりしてきたよ。


「鈴木。」

会長秘書で秘書課長の右助が朔夜クンを遮った。

「……はい」

「そろそろ時間だ。藤村先生を頼む」

「承知しました。──先生、どうぞ、車へご案内します」

「あ、ああ。それじゃお願いするよ」

徹クンが少し慌てて身繕いをする。
小動物のように忙しなく動く徹クンが、ピタリと止まって振り向いた。

「そうそう、時雨クン、詳細な血液検査の結果がでたら、またうかがうからね」

「血液検査?」

両腕の内側に目をやる。

あ。
左腕に白い四角の絆創膏が貼られていた。

意識がないからって、大嫌いな採血をされるなんて。
不覚だ。

「一体何を投与されたのか、結果が来れば分かると思うよ」

「ふむふむ」

「それまでは、何があるか分からないから、安静に。いいかい?」

「そうだね、打たれた直後は痛かったものなぁ」

あの奇妙な感覚を思い出すだけで胸が悪くなるようだ。

「『楽に逝ける』なんて言われたけれど、嘘だったようだねぇ」

「!!」

「旦那様!」

「う? んん!?」

双子が同時に振り向いた。
流石双子。
毎度シンクロには驚かされる。

「『楽に逝ける』とは、犯人が言ったのですか?」

「うん」

そう、確か……

「『楽に逝けるらしいから』と言っていたかな」

「会長、間違いありませんか?」

「うん」

右に左に首を巡らすのに忙しいが、そう、確かにそう言っていたはずだ。


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