「
会長^2」
会長襲われた
16
どうしたんだろう。
クマちゃんは口をもごもごするばかりで埒があかない。
浩太郎を見る。
あ……目を反らされた。
執事も無表情で応えてくれない。
なんだいなんだい。
みんなして。
私は仲間外れかい?
「仕方ないわよねぇ。上演中に席を立つなんて不作法だもの」
「ねぇ」と絹江さんが微笑みかけた浩太郎の顔がみるみる青ざめていく。
上演中……。
ん?
「まさか……、絹江さんと……」
浩太郎の肩がぴくりと跳ねた。
「……まさか……」
「あら、だってエスコートして下さる方がいなくなってしまったのだもの。代わりをお願いしたのよ」
き ぬ え さ ー ん !
ティカップを口元から離しながら、事も無げに言い放った。
この、小悪魔さんはー!
「浩太郎……」
落ち着きを無くしている義息子を睨み付ける。
「今日、初めて君を養子に迎えたことを後悔したよ……」
「お義父さん……」
震える声を哀れに思わないでもない。
が、私は怒っているのだ!
そんな目で見ても怒っているんだから、駄目だよ!
「時雨さんったら、そんな風におっしゃっるものじゃないわよ」
「きぬえさん」
めっと可愛らしくねめつけられて、心がほっこりしかける。
はっ!
いけない!
ここは、はっきりさせておかなくては!
「絹江さん、止めないでください。浩太郎、自分のしたことだ。分かるね?」
「…………はい」
とんでもないことを仕出かして、ただではおけない。
「確かに、君には絹江さんの頼みを断ってはいけないと教えてきたよ」
小さな頃から。
それはもう、繰り返し繰り返し。
「だからと言って、判断を放棄して良いわけではない。そうだろう?」
「はい。申し訳ありません」
うなだれる浩太郎の肩に手を置く。
力が入った指先が、固い筋肉を窪ませた。
浩太郎も大いに反省はしているのだろう。
だが、これだけは言っておかなければ私の気が治まらないのだ。
「私を差し置いて絹江さんとデートするなんて、二度と認めないよ!」
「あら、残念ねぇ」
「! 酷いよ絹江さん!」
本当に残念がっている絹江さんに、私のハートが壊れてしまいそうだ。