「
会長^2」
会長襲われた
12
いやあ、空気って美味しいね!
浩太郎から解放されて、深呼吸する。
ジムで鍛えられた肉体は素晴らしかった。
微かに香るコロンも浩太郎に似合って魅力的だ。
私が女性ならば惚れてしまいそうだ。
もっとも、泣きじゃくりながらでなければ、だけれども。
「浩太郎さん、ハンカチをお使いなさい」
「お義母さん……」
絹江さんが浩太郎にハンカチを差し出す。
「まったく、あなたはいつまでも泣き虫さんねぇ」
「外見はこんなに格好良くしたのにね」
幼い頃から変わらない部分を、親の欲目で好ましく思ってしまう。
が。
一企業の社長としては困ったものだ。
「すみません、取り乱しました」
多少、顔を赤らめながらではあるが、元の男前に戻った浩太郎が乱れた髪をかきあげる。
うん、おかえり、いい男。
「あっ!」
……びっくりした。
ひっくり返った浩太郎の声に心臓が跳ね上がる。
年寄りは大事にして欲しい。
「そうだ。お義父さんからも阿隅さんに言って下さい。坂本さんの処分は必要ないって」
「さかも……ああ!勇気クン? 処分、ね。クマちゃん、報告を」
控えていた阿隅に視線を送る。
「はい。今回の件、坂本の警護に不備があった為、減俸と配置換えを検討しています」
「だから、坂本さんじゃなくて、お義父さんが悪いんだから。処分は必要ないよ」
「いえ、どのような事態にあっても旦那様を警護するのが我々の務めです。それができない者は隊に必要ありません」
「ね、お義父さん。この調子なんだ。」
浩太郎の泣き落としにも、阿隅は眉毛一つ動かさない。
流石、うちの警備隊長殿。
格好良いね。
しかしこの二人が並ぶと凄まじい。
ドラマのワンシーンのようだ。
「クマちゃん」
「……はい」
ちんちくりんが間に入りますよ。
「浩太郎の言うとおり、私の身勝手が引き起こしたことだ」
「はい。しかし、旦那様がそういう方であることを踏まえてお守りするのが仕事です。」
困ったね。
日頃の行いを省みる。
まさに、後悔先に立たず。
「左ノ助……」
困った時の執事殿の顔をうかがう。
が、目を合わせてくれない。
「警備に関しては阿隅に一任しております」
どうしたものだか……。
勇気クンの屈託のない笑顔が脳裏に浮かぶ。
良い青年なんだよ。