会長^2
会長襲われた
11

沈黙を破った浩太郎が、瞑っていた目を開くと真っ直ぐ私を睨みつけた。




「本当に……皆、お義父さんには甘いんですから。ご自身の立場をきちんと自覚して下さい。何で軽率な行動されるんですか」

焼けた肌にキリリと整った鼻梁。
怒りで精悍さが3割増だ。

「聞いてますか?」

「いやあ……いい男だな、と」

「お義父さん……」

いけない。
浩太郎の肩がわなわなと震えだしてしまった。



「否、悪かった! 反省してるんだ!」

下を向いてしまった浩太郎に慌てて近付く。

「どうもこう、出来心というか、悪戯心というか。ついふらふらーっと」

「警護を撒くんですかっ?」

「うん……思い付きというか……」

「お義父さんっ」



しまった。

顔を上げた浩太郎の双眸から、ぽたぽたと雫が。

あーあー。
鼻をすすって。

いい男が台無しだよ。



「良いですか? 警護というのはですね、する側がどんなに気を配っても、対象者の協力なしには成り立たないんです。彼らの仕事を踏みにじるような真似をしてはいけないと、そう私に教えて下さったのは誰ですかっ!」

「……わたし?」

ちらりと執事を見ると、おもむろに頷く。

あ、やっぱり私?



「なのに……、なのに……」

大粒の涙が頬を伝って床へ零れ落ちる。
真っ直ぐ私を見つめたままの瞳から、後から後から溢れ出る涙。

拭いもしない浩太郎の眼差しに少し気圧された。

「すまない」

ぺこりと頭を下げる。

本当に反省してるんだよ。



「──ぐふぉ」



視界が塞がった、と同時に物凄い力で締め付けられて、おかしな声が出た。

「こ、タロ……くるし」

180以上ある長身の浩太郎にきつく抱きしめられて足が浮く。

「お義父さんに、何か、あったらと思っ……生きた心地、しませんでしたっ。よかった……本当に、良かった……」



うん。
この姿を無事と言えるかは分からないけれど。
生きて戻ってこられて良かった。

良かったよ。

うん。



今、酸欠でお迎えが来そうだけどね。



「社長」



秘書の出番です。



「浩太郎さん」



絹江さんも加勢してくれました。


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