「
会長^2」
会長襲われた
10
トマトとチキンが五臓六腑に染みる。
口いっぱいに頬張ったサンドイッチを嚥下した。
……。
そんなに微笑みながら見つめないで欲しい……。
食べ難いったらない。
気まずさを打ち消す為に口を開く。
「私を連れ去ったのは、体格の良い手練れの男だと思う。薬品を嗅いで気を失ってしまったよ」
「旦那様の狸寝入りは通用しなかったんですね」
「うん」
執事の意地悪な茶々は受け流す。
誘拐が日常的だった少年時代、薬品が効いた振りをした事があった。
意外と成功したものだ。
しかし、流石にプロに通用するような技ではない。
「気が付くと手足は拘束されて、目隠しと猿轡を噛まされていた。クマちゃんが私を見つけた時には?」
阿隅隊長に視線を送る。
その間に唐揚げをつまんでぱくり。
頬張るとジューシーな肉汁とスパイスが口内に広がる。
おお!
やけに美味い!
「そういったものは一切ありませんでした」
「ほうか」
やっぱり妙だね。
「その後、犯人らしい若者が三人、部屋に入ってきた。慌てていたね。袖を破られて注射された。暫くすると意識が混濁してきて、それ以降はわからない」
「拘束を解かれて、その……着衣を乱されたのはその後、と言うことでしょうか」
「うーん」
気まずそうな警備隊長をそっちのけにして、カフェ・オ・レで喉を潤す。
危害を加えられた覚えはないし、女性ではないからね。
少しも気にならない。
ふんわり優しい甘さが脳みそを元気にしてくれるような気がした。
「犯人達は慌てていたんだよ。逃げる算段をしていた」
「我々が取り囲んだのに気づいたのでしょうか」
「そうかもしれない。川沿いに逃げようと話していたよ」
「はい。逃走する犯人グループを発見したと報告がありました」
「うん。つまりね、私に危害を加える暇なんてなかったと思うんだよ。急いで逃げなくてはならない状況で、おかしなことをするなんて、とても考えられない。洋服は……よく分からないけれど、別の意図での工作だろう。だから大丈夫」
にっこりと笑いかけてやる。
責任感の強い警備隊長の心中が少しでも軽くなれば良い。
そもそも。
「私が軽率だったんだから、警備隊に落ち度はないよ」
「自覚、してるんですね」
おっと。
藪蛇だったか。
別方向からの砲撃に舌を巻く。