会長^2
会長襲われた
08

「16歳と10カ月、頃かと思われます」



──随分と具体的なのね。



「16かあ」

「はい、17歳の誕生日には155を越えられてお喜びでした。」

「そうだったかねぇ」

遠い昔の記憶を手繰り寄せようとするが。

「うーん、全く覚えてないね」

諦めた。



「はい、私が記憶しておりますのでそれでよろしいかと」

滅多に表情を変えない左ノ助が微かに微笑んだ。

思い出し笑いだな。
この助平。

その頃、私が何かやらかしたのかもしれないが、思い出せない。

もやもやするなぁ。



「およそ17歳……」

徹クンがカルテに向かっている。

「50からだから33歳も若返ったのか。不思議だなぁ」

「そうだそうだ、何かね、薬を打たれたんだよ。」

腕を捲って藤村に見せる。
ひょろっとした二の腕は男としてみすぼらしい。

30年前、こんなに華奢だったかな。



「うーん、注射の痕は確認できないね」

「多分この辺に、ないかな?」

「うーん」

「袖を千切られていた筈だよ」

執事は把握しているだろう。

「はい。左の袖は二の腕の辺りで破れていました」

うん。
夢じゃないよね。

「ですが、シャツの破損はそれだけではありませんでした」

「ほう?」

「阿隅、報告を」



執事の視線を追うと、出入り口に巨体が佇んでいた。

おお!
こんなに大きな物に少しも気が付かなかった!



「はっ」

姿勢を低くした警備隊長が一歩前に出る。

額に走る傷痕。
鋭い目つき。
引き結ばれた薄い唇。
鬢の白髪が目立ってきたが、それがまた貫禄を増している。

筋物も避けて通る強面の表情がいつも以上に凄惨なのは、気のせいではないだろう。

「申し上げます。」

「うん」

「昨日の23時頃に廃ビルで会長を保護いたしました。」

廃ビル。
なんてベタなんだ。

「我々が踏み込んだ時には犯人は立ち去った後で、少年が独り横たわっていました」

少年……あ、私ね。

「ボトムと下着は身につけておらず、シャツは袖以外にも所々破れていました」

「あらやだっ」

口を押さえた絹江さんと目が合う。

「どうしよう、絹江さん」

「気をしっかり持つのよ!」



ん? いや、でも何だか妙だ。


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