「
collar」
緑と青
01
「何してんの?」
思わず声に苛立ちが混じってしまった。
だって、仕方ない。
接触するなと、あんなにきつく言ったのにもかかわらず、#3が#5の部屋にいるんだから。
出入り口に立ったまま、動きが止まってしまった。
「あ、#10!」
悪びれるそぶりすらない#3の笑顔に、コメカミがぴくぴくする。
辛うじて怒鳴らずにいられたのは、#5も幸せそうに笑っていたから。
どこも怪我をした様子はないし、今は怒るべき状況ではない。
「じゃあ、オレ行くな? サンキュ、#5」
ニコニコ嬉しそうに出て行く後姿に塩をまきたい気分だ。
「……ぼく、も」
「#2? やだ……独りでいたの?」
声を上げるまで存在に気づかなかった#2に驚いた。
普段ならば、#2は#1と一緒に行動することがほとんどで、独りでいるのは珍しい。
目が不自由な#1と、意思疎通が不自由な#2は、二人でその足りない部分を補い合うようにお互いを離そうとしない。
今日はどうしてしまったのだろうか。
「独りで帰れる?」
「……ん、かえぇる」
ふわりと砂糖菓子のように微笑んで、#2も部屋から出て行った。
白い肌に白い髪の毛の#2がふわふわと歩く姿は、どこか危なげで、その姿が見えなくなるまで見送った。
「#10、きて」
その背中にきゅっと#5が抱きついてきた。
嫉妬だろうか?
抱きしめる力が、少しだけ強い。
たったそれだけのことで気分が浮上する自分に苦笑する。
「うん、どうしたの?」
「これ、あげる」
手を引かれて室内に入ると、甘い匂いが部屋に充満している。
「わ、ありがとう。……何かな?」
「チョコレート」
「チョコ?」
ああ、チョコの匂いだ。
部屋を見回せばあちこちにチョコレートがついたままの調理器具が転がっているし、壁や床には茶色い染みが点々とついている。
こう言ってはなんだが、まるで凄惨な殺人現場のようだ。
「……作ったの?」
「そう」
あの三人で作ったのか。
絶望的な光景が目に浮かぶようだ。
それでも……
「嬉しい! ありがとう!!」
「……」
ボクのために、#5が作ってくれたなんて、嬉しくて仕方ない。
頬を少し染めてうなづく#5に抱きつく。
手をとって、その手の甲にキスをした。
お礼に今日はいっぱいいっぱい、甘やかしてあげないとね。
束ねた髪の毛にこびりついた茶色の甘い塊を舐め取って、#10はその甘さに目を細めた。
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バレンタインでした。