「
collar」
ピンクと赤
01
#7の部屋の呼び鈴が鳴った。
朝のシャワーから上がったばかりの濡れたどぎついピンク色の髪の毛を拭きながら、モニタを確認した#7は小首をかしげてドアのロックを解除する。
ぷしゅーと気の抜けた音がして、小柄な人物が顔をのぞかせた。
「げ。」
「何よ、失礼ね」
画面ではもじもじとはにかんでいた#3の顔が一瞬で歪んだのを見て、#7が鼻を鳴らした。
「チンコ丸出しのが失礼だろ」
「あら、見ちゃったのね〜。拝観料頂かなくっちゃ〜」
「うっぜ」
髪の毛を拭いていたタオルを腰回りでひらひらさせておどける#7に、ますます#3の顔が歪む。
上の毛と同じパッションピンクの下生えから覗く浅黒い性器は、グロテスクとしか言いようがない。
#3の物凄い形相に声を立てて笑いながらスラックスを履いた#7が首をかしげた。
「どしたの? 部屋に来るなんて珍しい」
「あ、そうだ!」
目を見開いてぴょこんと飛び跳ねた#3に、#7が微笑む。
裏表のないこの少年は本当に見飽きない。
「髪の毛、切ってもらおうと思って……」
#3が頬を赤らめて短い前髪をつんつんと引っ張って見上げる。
まだとても長いとはいえないその髪の毛を見ると、赤銅色の根元に対して毛先が真っ黒に染まっていた。
「ああ! この間の爆発ね」
パチンと手を打つと、微かに頷いた#3の口が尖った。
「あらあら、#10に叱られちゃった?」
「……叱られたのはいいけど、#5と遊べない」
「んま! #10ってば、嫉妬深いんだから!」
「嫉妬?」
褐色のキューピーのような外見の#10が浮かべる神経質そうな表情を思い浮かべて楽しげに笑う#7に、#3が首をかしげる。
#10に#5との接触を止められたが、それは#5を傷つける可能性があるからだと言われた#3には、#7の言う嫉妬の意味が分からない。
「ふふっ。いいのよ、こっちの事。さて、じゃあ、切りそろえてあげるわ」
にっこり笑う#7は、#3の疑問を受け流すと、その長く伸びた襟足を括った束をするりと掬いあげた。
短い部分はツンツンと立ちあがっていて固そうに見えるが、伸びた髪の毛はしなやかで手触りが良い。
艶のある黒はとても綺麗だ。
「黒も素敵だと思うんだけ
どね」
「どこがー。やだよ、恥ずかしいもん」
#3の髪の毛はイメージを暴発させると黒く“酸化”するらしい。
黒い髪の毛は自らの未熟さを露呈させている訳で、その部分を切ってしまいたいと思う#3の気持ちも分からないではないが、何となく勿体ない。
「襟足はこのままね?」
長く伸ばした部分は自らへの戒めらしいのだが、その戒めが機能した事があるのかは定かではない。
つい先日も散髪してやったばかりなのだから。
掬いあげた毛束に口づけする#7に嫌そうな顔を浮かべながら、#3が頷く。
その反応にころころと笑い声を上げて、踊るように身を翻した#7が「#3用散髪セット」を取り出して来た。
「さて、じゃあ、こちらにおかけください」
しなやかな体を優雅に折り曲げた#7が、芝居がかった仕種で促す。
#7が差し出した掌を掴もうとした#3だったが、ぴたりと動きを止めるとキッと目を吊り上げた。
「服は着て良いんだぞ? ろすつ狂」
「それを言うなら露出狂。あらやだ、どきどきしちゃう?」
「やっぱり#7はへんたいなんだな?」
「あん、もっと言って〜」
「へんたいだ!」
二人してぎゃあぎゃあ騒ぎながらじゃれ合う。
#7も#3も、このひと時は嫌いじゃない。