「
童話体験」
おやゆび姫
青年A
数日前、目が覚めると、雷は何故だかチューリップの花の中にいた。
しかも裸で。
記憶を辿る。
前日は、一人暮らしをしている高校のツレの部屋に押しかけて。
アルコールを幾らか口にした。
その幻影か……。
そう逃避したものの、いつまで経っても変わらない現実。
あまりの事に呆然としていると巨大な巨大な男が現れて、雷を歓迎した。
優しそうに微笑む青年の笑顔に、恐怖した。
ここは、その青年の家。
全てが途轍もなく巨大な世界に、雷は眩暈を起こした。
カレースプーンの上に座る自分なんて、想像した事もない。
シリアルなんかじゃちっとも腹に溜まらなかったのに、コーン一粒で満腹になる。
青年は甲斐甲斐しく雷の世話をする。
食事の世話、衣服の世話、それから、湯浴みの世話。
次第に雷もこの状況を受け入れ始めた。
細かく切られた食事は、有難かった。
用意された衣服も有難かった。
皿に張った湯も有難かった。
有難かったが、逐一観察されるのは勘弁だった。
時には、手伝いを買って出た青年に、綿棒のようなもので体中を擦られた。
正直、勘弁だった。
だが、現状、雷のライフラインは青年に握られている。
機嫌を損ねる訳にはいかない。
そう考えて耐えた。
例え、性器の辺りが特に念入りに擦られているような気がしても、耐えた。
嬉しそうに排泄物を観察されるのも耐えた。
食われるんじゃないかと恐怖に震えながらも、近づいてくる唇にも耐えた。
べそをかきながらも、生温かい舌で舐られ、その上に乗せられるのにも耐えた。
……むき出しの、巨大な性器の上に乗せられるのにも耐えた。
脈打つ度に落ちそうになる恐怖で、必死にしがみついて──耐えた。
大層楽しそうに、青年は雷の世話をしていた。
羞恥やら、常識やら、絶望やら、希望やら、混乱して、混乱して。
雷は考えることを放棄した。
現状、すっかり全てを青年に委ねるようになっていた。