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老いも若きも等しく



教師×退職後教師
嵐の続き
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雨戸を開ければ、瑞々しい朝の空気が家の中に流れ込んだ。

まだ少し雲の残る空を見上げる。
屋根から落ちた水滴がひさしに当たって、きらきらと煌めきながら砕け散った。

世界は美しい。

寝室に残してきた寝顔を思い浮かべて独り喜びを噛みしめる。
彼がいるだけでこうも心持ちが違うものか。
ウキウキして、まるで女子学生のようじゃないか。

──そうだ、朝食にネギ焼きを出そう。
昨日収穫したものがある。
好き嫌いの多い佑君が物凄い形相で咀嚼する様を想像して、思わず笑ってしまった。


「おはようございます、ご機嫌ですね」

「……おはよう」

後ろからがっしりとした体に抱きしめられて、ドキンと心臓が跳ねた。
佑君は僕を不整脈にでもしたいのだろうか。

山の陰に隠れていた朝日がさっと差し込む。
そのまぶしい光に照らされて、輝くような笑顔を浮かべる佑君に目を細める。

「隣にいないからびっくりしましたよ」

「どこにも行かないよ」

「はい」

佑君は僕の狡さを知らない。
僕がとても幸せでいることも、きっと知らない。

それでいい。
佑君が不安がっているのは分かっている。
知っていながら、それを取り除きもせずにいる。

その方が、少しでも長く僕が幸せでいられると思うから。

なんて老獪な考えだろう。
我ながら眉をひそめずにはいられない。

「あ、虹」

「ああ、……二重にくっきりと、凄いね」

「今日は条件がいいですから……」

スペクトルが……入射角が……とブツブツ呟く佑君に、ふと笑いが漏れる。

学生のころ、私の教える国語が苦手だった彼。
同じものを見ても、思うものが全く違う。
違う人間なのだから当然の事なのだろうが、それが新鮮で良い。

それを互いに確かめ合う作業の、なんと楽しいことか。

「伊香保ろの 八尺のいでに 立つ虹の 顕はろまでの さ寝をさ寝てば」

「……何ですか?」

「東歌だよ。人目につくまで共寝を続けていたい、なんて……っわ!」

浮遊感に驚いて佑君の体にしがみつく。
老いて痩せて来てはいるが、成人男性だ。
それなりに重さもある体が、逞しい腕に軽々と抱えあげられてしまった。

「お望みどおり……今日は、布団から出しません」

「!」

色気を滲ませた笑顔が近い。
僕の心臓は不整脈どころじゃなくなってしまった。


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続き物は書かない予定でしたが、お題がぴったりで。
誘惑に負けました。

貞光さんサイド。

佑君は物理の先生って事にします。

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