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老いも若きも等しく



教師×退職後教師
ちょっと狂愛?
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窓の外が暗い。
西の山肌を黒い雲が覆っていた。

「佑君、明日は休みだろう? 泊まって行きなさい」

ヒューヒューと風が笛を吹き、家の外では何かがガラガラという音を立てて転がっていった。
天気予報どおり、嵐だ。

「はい」

素直に頷くと、貞光さんの隣に立って窓をから外を覗き込む。

「桜、全部散っちゃいますね」

「見ごろは短いものだ」

重そうなほどに薄紅の花をつけた黒い枝が突風にしなる。
その度に、花弁が吹雪のように舞い上がった。

願わくば 花の下にて 春死なん

そんな事を言って、この山深い地で隠遁生活を始めた貞光さん。
「その後は、桜の木の下に埋めてあげますよ」と冗談めかして言ったら、割と本気で喜んでいた。
そうしたら、今度は俺がここに住もう、と思う。
毎年、貞光さんに会うために。


そっと、貞光さんの手を取る。
なめした皮のような手触りを楽しみながら隣に視線を送れば、外を見る貞光さんの表情に僅かな戸惑いが見て取れる。

「貞光さん、今夜は花見酒でもいかがですか」

「……散ってしまうよ」

「その様を見送るんですよ」

持ち上げた手の甲に唇を落とす。
びくりと体を強張らせても、俺を拒むことはない。
その優しさに付け込んで重ねる唇。
そして、体。

疚しさがないとは言わない。
だが、そんな些細な代償で貞光さんが手に入るのなら安いものだ。


「たすく、くん……あ、ぁ……」

耳をくすぐる貞光さんの小さな声は、風に軋む古い家の悲鳴に掻き消えてしまいそうだ。
俺をこの家に留めてくれた嵐も、今ばかりは恨めしい。

峠の道は危険だからと、以前にも天候が荒れた時に引き止められた事がある。
それに味を占めて、今朝、天気予報を確認してから遊びにやってきた。

俺が「泊まりたい」と言えば断るような人ではない事は分かっている。

違うのだ。
貞光さんに、引き止められる、その事実が大事。
そこに何の他意も含まれない、単なる親切であったとしても。
嬉しいのだ。
心がざわざわと落ち着かなくなるほど。
嬉しい。

求められているんじゃないかと、勘違いできる事が嬉しい。

一緒にいたいと思ってくれているんじゃないかと、自惚れられるのが嬉しい。


「貞光さん、声、聞かせて下さい」

「っ! ああ、あぁああ……!」


外は嵐。
世界に俺らしか存在しないような、そんな錯覚に酔い痴れる。


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国語教師!! です!!
西行法師と梶井基次郎……好きなんです……。

多分、貞光さんも憎からず思っていていると思います。
それで、馬鹿だなあ、と愛しく思ってます。

貞光さんは佑君とこんな関係になってしまったので教師を辞めました。
逃げ出したわけではなく、自分が教師に相応しくないと思ったのと、同じ教師ではバレる危険があるのじゃないかと危ぶんだためです。
それをまた、佑君は勘違いしてるんでしょうね。

学生の佑君は、貞光さんに憧れて教師になったとかでいいと思います。
10年越しの大恋愛です。

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