「
老いも若きも等しく」
針
針灸師×見習い
普通の師弟愛?
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職業柄、ひとの裸は見慣れている。
老若男女、美しかろうが、醜かろうが、何の感慨が沸くこともない。
それが、立場が逆転すればこうも恥ずかしいものか。
施術台にうつ伏せに寝そべった私の老いた体は、渡辺の目にどう映っているのだろう。
なんて。
なんて、自意識過剰なんだ。
緊張にかすかに震える体を嘲笑する。
後進の顔にはきっと真剣な表情が浮かび、その目には経穴しか映ってはいまい。
「どうした? 早く始めなさい」
「はっ! はいっ! すみません!」
緊張を隠すために硬くなった声に、私が怒っているのかと勘違いしたのだろう。
渡辺の返事が上ずった。
「いい、落ち着け。いつもどおり、やればいい」
「はい……!」
資格を取って間もない渡辺に練習台を頼まれた。
真面目でひたむきな青年の頼みだ。
喜んで引き受けたまでは良かったのだが、どうも落ち着かない。
「…………!」
そっと右肩に触れた暖かいてのひらに、ドクンと心臓が跳ねた。
「先生、最近、右腕の調子どうですか?」
「……ああ、良くないな」
「では、今日はそれを練習させてください」
「頼む」
最近また痛み出した古傷に、気付かれていたとは思わなかった。
弟子の観察眼に舌を巻く。
経穴を確かめているのか、ぽんぽんと指が背中を辿る。
その微かな刺激がくすぐったくて、ぶるりと体が震えた。
「くすぐったい」
「あ、すみません」
顔を上げて弟子を軽く睨み付けると、頬を赤くした渡辺が笑いながらぺこりと頭を下げた。
にこにこと愛想良く笑う渡辺にため息が出る。
何がそんなに面白いのか。
「早くしなさい」
「はい」
またもとの通りに寝そべると、治療を促した。
「先生、結構感じやすいんですね」
「……馬鹿なこと言って。真面目にやらんか」
「はい」
緊張はすっかり解れたが、不思議といつもより僅かに拍動が早い。
その心地いいリズムを数えながら目を閉じた。
「刺しすぎた」
「ひゃ、すみません」
「皮下脂肪を計算しろ」
「はい!」
夜な夜な、二人っきりの練習は続く。
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アレ?
LOVE要素が……ない……?
個人的には、いい大人がちょっとじゃれてる感にきゅんきゅんしてますが、駄目でしょうか?
「針」は「鍼」と書かれることが多いようですが、今回「針」のお題で書かせていただきました。
……鍼灸行きたい……。