「
老いも若きも等しく」
枢
天然オヤジ×ツンデレ少年
*ラブコメです
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背の高い私用に誂えた木棺は、彼には大きすぎる。
横たわる小さな体の足元には、空間が余ってしまっていて、どこか不安を感じさせた。
そこを埋めるように手づから花を置く。
最近では色のついた花を入れることも多いようだが、やはり白がいい。
菊、百合、カスミソウに蘭、それから薔薇。
辺りに甘い香りを漂わせる花々が、彼の体を取り巻く。
花の中、彼もまた、一輪の花のようだ。
白い肌。
少し低いけれど、可愛いらしい鼻梁。
小さな口。
閉じた瞼の縁には長い睫。
快活な彼も、こうしていれば深窓の佳人そのもの。
愛しさや切なさがない交ぜになった何とも言えない気持ちだ。
それが溢れて、深い溜息に変わる。
「愛しているよ」
そっと手を伸ばして、その頬に触れた。
柔らかな肌の上を辿って、首筋に手のひらを当てる。
そこに顔を埋めれば、ベビーパウダーのような柔らかな香りがするのだ。
「……くすぐってーよ」
「おお、ごめんよ」
ばしっと手を払われてしまった。
せっかく綺麗に敷き詰めた花が無残に乱れて、柩の外にも零れている。
「ってか、花、さっむいわー。風邪引くって」
柩の中の彼の大きな目がぱちりと開くと、可愛い唇から乱暴な言葉が紡がれる。
私がおろおろしている間に、彼は起き上がって大きく伸びをした。
じっとしているのが苦手な彼にしては、長く辛抱していたように思う。
「……どうだい? 何か感じたかい?」
「ねえよ。ほんと、何でこんなモン買ってんだよ」
「あっ、おう……やめてくれ……」
勢いよく柩から飛び出した彼に驚いて尻餅をつくと、形のよい足が肩を蹴る。
痛いわけではないが、情けない。
「バッカじゃねえの」
「いや、いや、そういうね、老後の人生観が変わるとか、セラピーがあるとか、聞いてね……」
「老後って……おまえさ、まだそんな年じゃねえだろ……」
がっくりと項垂れた彼が、私の横にしゃがむ。
「これどうすんだよ。40年も保管すんの? アホか」
「あでっ」
びしりと額を指で弾かれて、目を白黒させる。
ひりひりとする眉間を撫でていると、私の顔を彼が私の顔を覗き込んできた。
「あのさ、こっちは必死で追いかけてんの。勝手に悟ってんじゃねえよ?」
にかっと笑う彼は、清楚とは言い切れないけれど、私にとって大輪の花である事は間違いない。
滅多に聞けない彼の甘い告白に、棺効果は絶大だと改めて思った。
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棺は空、柩は仏様が入った後を指すらしい。
勉強になりました。
棺に入るセラピーは本当にあるそうですね。
が、多分、この主人公は訪問販売の押し売りで買わされたのでしょう。
でも、買った本人が満足しているので良いんだと思います。