0°ポジション

木曜日B

シゲの指がズボンと下着の内側のふにゃりとしたモノの形を辿る。
先程は痛くして悪かったとでも言うような優しい動きが、気持ち、悪い。

「っ……シゲ……」

「ん?」

「ひ、ヤっ……あ……」

たっぷりと濡れた舌にべろりと耳朶を舐められた。
気持ち悪い。
気持ち悪いはずなのに。

下着の中のその部分がじんじんと痺れている。

自分の体に裏切られているような気持ち。
駄目だ。
駄目だ。
シゲにその変化がバレてしまう。

「ここ、じゃあさ、まだ、オレだけってこと?」

「っ……」

「どーてーちんこくーん。流石にもう皮剥けた?」

「るせ」

「可愛かったよなあ? ふ。オレが剥いてやったんじゃん」

「だまれって」

恥ずかしがるなよ、と囁かれる耳はきっと真っ赤に発光してる。

ああ、くそう。
時間を遡れるならば、あの日のバカなオレを殴りとばしてやりたい。

若気の至り。
性への純粋な興味の結果。
無知と言う罪の代償。
忘れたくて、普段はすっかり忘れた振りをしていても、本当は、今でも良く覚えている。
シゲと、二人で、した、あの遊び。

誰もいないシゲの家で。
二人の興奮した息遣いと濡れた音が煩く頭に響いているのに、家の中のシンとした静けさは耳が痛い程だった。
今じゃ感じる事もないような、途轍もない背徳感と、興奮。
自分じゃないヒトの手が汚い部分に触れて、それが生み出す快感に、初めて味わう快感に、ハマった。

一回じゃない。
何度も、何度も、繰り返されたあの遊び。

「まえんだって、オレが!」

「そうそう、オレのも。……お前の、その手で、握ったんだよな?」

「っ」

なんでそういう言い方をするかな・・・!

そうだよ、そうだよ。
全部、覚えてる。
涙で潤んだ三白眼の目元が、赤く染まっていたのも。
ぺろりと舌が濡らす唇が楽しげに弧を描いていたのも。
不規則な呼気に、こらえ切れない声が混じっていたのも。
触れたシゲの熱さも、硬さも、拍動も、全部覚えてる。

「気持ち良かったよな?」

脳みそが沸騰しそうだ。
発酵した記憶はむせかえる程に甘くて、シゲの低く囁く声もやっぱり甘くて、くらくらする。

くっそ。
なんでオレだけこんな恥ずかしがらなくちゃならない?
シゲだって、同じなのに。

「スル? 気持ちイイこと」

「っや……!」

ずくり。
悪魔の囁きに、腰が甘く痺れた。
唆された欲望が、ドキドキと心臓を高鳴らせ、塞がった喉が息を詰まらせる。
期待、している。
何を?
そんなの決まってる、あの頃の、イケナイ遊びの続き。



ああくそ、気持ち悪い。



シゲにこんなことされて、こんな、こんな風に反応しているオレが、気持ち悪い。


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