「
0°ポジション」
木曜日@[雛森 繁一(ひなもり しげかず)]
ガキの頃からいつも隣にいて、お互い秘密なんて何もねえ。
って、思ってた?
バーカ。
* *
ほんとバカだよな、と耳に吹き込まれて、思わず、ん、と声が漏れた。
ぷるりと微かに震えた体は、後ろからしっかりと抱き込まれている。
ふっと耳にかかった息が、バレバレだとオレをバカにしていた。
「も、しゃべんな!」
「何で? 感じちまう?」
「っ! う、るせ、の……! 耳元で!」
「ハッ! オレの声大好きなくせに」
何言っちゃってんの? うわ、恥ずかしい奴! キモイキモイキモイ!
いつもなら、直ぐに言い返すんだけど。
シゲは、声は、声だけは、確かに良いから。
それを自覚して低く囁くシゲの声は、相当、クる。
ぞわああああっと脳天に寒気が走り抜けて、顔の産毛までびりびりっと感電したみたいに痺れて。
ああ、畜生。
言い返したら、またきっと。
「否定しねえの?」
「ふ、ぁっ……!」
くっそ。
言い返さなくても攻撃された。
耳の軟骨に歯が当たってる。
止めろって言っても素直に聞くような可愛い奴じゃない。
性格最悪な俺の幼馴染。
わかってるけど、止めて欲しい。
ゾクゾクして、……気持ち、悪い。
「なあ、どうだった」
「……にが?」
「とぼけてんじゃねーよ」
「っ! シ、ゲ!」
するり。
シャツの裾から差し込まれた乾いた手のひらが、オレのわき腹をくすぐる。
オレの体がなんとなく汗ばんでしまっているのが、無性に恥ずかしい。
「だーい好きな駿兎せんぱーいに、好きって言われてさ」
「っ」
「嬉しかっただろ?」
クッと、喉で笑われてかっと顔が熱くなった。
「ヤられちゃった?」
「っ! なこと! する人じゃねえよ!」
怒りのまま振り向いてシゲを睨み付けると、普段よりも数段凶悪な三白眼が俺をじっと見つめていた。
……なんでオマエ怒ってんの?
右目が細く眇められて左の眉毛が上がってる、それ、怒ってる時の癖だろ。
ふうん、と漏らす声が楽しそうなのが、ちょっと怖い。
「じゃあ、何? ね、こんなモノつけられて?」
「っ」
首の皮膚をきゅっと指で摘まれて、僅かに感じる痛みに眉をしかめる。
ああ、そこは、赤く、跡が、ある。
駿兎先輩の跡、が。
「何されたんだよ」
「い、ひぁっ……!」
まぐり。
耳を、食われた。
耳朶が暖かく濡れた口内で包まれ、ざらりとした舌が低い声と供に耳の穴を犯す。
気持ち悪い。
ぐちゅぐちゅという、濡れた音が、気持ち悪い。
逃げようとするオレの、顎にくい込むシゲの指がかなり痛い。
「何? なあ? 何?」
「んっ……キ、ス……」
やだ。
やだ。
「キす、だけっ!」
「へえ?」
「っあ! や……」
声、出すな。
オマエの声。
嫌だ。