「
0°ポジション」
水曜日B
微笑を浮かべた透流が、ゆっくりと、誓います、なんて繰り返すから、耐え切れずに視線を外す。
すると、また足の甲にキスされた。
優しく触れるだけの、キス。
視界の端、流れるような所作がとても綺麗だと思う。
様になってる。
ナイト様、ね。
ほんと素で気障だよな。
大体、こんな手入れも何もしていないごつごつした男の足にするような事じゃない。
マメやら踵やら、汚いのに。
くせえって姉ちゃんにいつも怒られてるような足なのに。
汚らしい部室の床に跪く透流だけなら、様になる。
なのにその相手がオレ、なんて。
「透流……」
制止の意味を込めて名前を呼ぶ。
押さえつけられている訳じゃないから、抵抗しようと思えばできる。
でも、動いたら、透流の顔を蹴ってしまいそうで。
なんて多分言い訳。
動けない。
体が、動かない。
「嫌?」
首を、ゆっくりと横に振る。
嫌とか、そういう問題じゃなくて。
「……分からない」
「そう」
じゃあ、と微笑む透流の指先が制服のズボンの裾を侵して、オレの足首をそっと撫でる。
「どこまでなら、嫌じゃないのか、試そうか」
「……どこまで、って……」
「嫌なら、止めて」
「っン……っ……」
するり。
するり。
透流の指が、足首からゆっくりと上っていく。
長くて、節だった、男の指が。
それによって露わになった部分に、透流の唇が触れる。
「……ぁ……っ……」
くすぐったい。
こんな傷跡とか青あざで汚い、すね毛だって生えてる足に、何してんだよ、おまえ。
おかしいだろ。
不思議でならない。
月曜から。
なんで気持ち悪くないんだろう。
男にこんなことされて。
気持ち悪いって、思うよな、普通。
「嫌?」
膝裏に触れた指にひくりと体を揺らすと、透流の目がオレを見上げた。
嫌かって……?
嫌じゃないから
「困ってる」
情けなさにへらっと笑うと、透流が僅かに目を見開いて、それからくすりと笑った。
「それは……、ごめん、嬉しいかも」
「嬉しいの?」
何で?
人が困ってるのが嬉しいなんて。
何、透流Sなの?
「もっと困って」
透流の指がベルトのバックルに伸びる。
「っ、透流……!」
「嫌?」
「えっ、ちょっと、嫌って言うか」
困る。
困るんだって。
「嫌なら、止めて」
だから。
嫌じゃないから困ってるんだって。