「
0°ポジション」
水曜日@[池波 透流(いけなみ とおる)]
掛け値ない笑顔を向けてくれる、大事な、大事なチームメイト。
その笑顔の価値。
俺にとって、何にも変えがたい、その価値。
* *
想像より柔らかかった髪の毛の触り心地が良くて、何度も何度も手櫛で梳く。
新発見が嬉しい。
見下ろす透流の頭は、丸く形がいい。
性格がいいと、頭の形まで良くなるんだろうか。
あ。
頭のてっぺん、少し右側に、つむじ。
透流にもつむじがあるんだな、とよく分からない感動に包まれる。
「透流」
「うん?」
「……本気?」
ベンチに腰掛けたオレの腹に顔を押し付けて腰にキツク腕をまわすこの男は、アノ“西高の良心”と呼ばれる男と同一人物なんだろうか。
キリリとした立ち姿。
誰もが見上げる高身長。
少し濃いけど、男らしい顔立ち。
不言実行の偉業。
公明正大。
優しくて、とても紳士的。
“他の模範となる”なんて定義が曖昧な表彰も、透流ならば皆なるほど、と納得する。
男が惚れる男……ああ、そういう意味じゃなく、純粋に、すげえ奴だなって惚れる。
オレだって、惚れ込んでいた。
真面目で格好いいヤツだから。
人間が、格好良い。
透流の友人でいられる事が嬉しかったし、誇らしく思ってた。
そんな、この男が。
「先輩と、狐塚にも、聞いたの?」
「え?」
「それ。本気なのかって」
上目遣いで見上げてくる透流の言葉に含まれる色に、くるくると頭が回転する。
動きの鈍い脳みそがはじき出した答えは。
「…………ごめん……」
「ううん、いいんだ」
静かに目を細めると、またオレの腹に顔を押し付けた透流に申し訳なさが募る。
ああ、オレって空気読めねえヤツ。
頭悪し、気も利かないし、サイテイ。
やっぱり、分かんないよ。
こんなデキた男が、オレなんかの事、好き、になる理由。
本当に、本当に、本気なんだろうかって、やっぱり思う。
好きなのか?
本当に?
先輩や、狐塚みたいに、オレのこと。
友達として、じゃなく?
駿兎先輩や、狐塚みたいに。
「キスしたい」とか「食べちゃいたい」とか。
……そういう、意味で?
どきどきどきどき。
あれ? おかしい。
心臓が耳の奥でうるさい。
何をされている訳でもないのに、どうしてこんなに切なくなってるんだろう。
心も、体も、切ない。