「
0°ポジション」
火曜日C
カタカタと、体が震えている。
何てことをしてしまったんだろう。
と思うと同時に、でも俺は悪くないとその咎を逃れるための言い訳を探す、ズルいオレ。
赤い色がチカチカと目に沁みる。
自分の指が血で汚れているのを見つめる狐塚の赤い唇が、にいっと弧を描いた。
赤い、赤い、唇。
ぺろり、とその赤を、舌が、舐める。
……血……?
その瞬間に、ジンジンと痺れる様な痛みを感じて、顔を横に動かす。
見なくても、──ああ、分かってたけれど。
そこにはくっきりと歯型。
「印、です」
真っ赤な血が滲む、狐塚の、印。
「おそろい、ですね」
微かに上気した頬。
うっとりとした眼差し。
ゆるく弧を描く唇。
オレの歯型に変色した指をそっと唇に当てる狐塚の顔は、とても色っぽかった。
オカシイよな、お前。
多分どっか狂ってる。
でも、何でかわかんないけど。
それでもお前のこと可愛いって思てるんだよな、オレ。
しょうがねえヤツ。
馬鹿なヤツ。
可愛いなあ。
って。
だから、きっとオレも頭オカシイんだろう。
震えは止まって、今はただ、ぼんやりと狐塚を見上げる。
「なんでそんな顔するんですか?」
「……え?」
「ねえ、オレ、せんぱいに酷い事、してると思うんですけど、なんで」
「?」
「なんで笑うんですか」
オレ笑ってる?
そりゃ、お前が嬉しそうに笑ってるから、だろ?
お前が嬉しいなら、俺も嬉しい。
大事なヤツが幸せそうなら、嬉しい。
そういうもんだろ?
「ナっちせんぱい、好きです」
「はは……」
「好きです。好きです。好きです。好きです」
ぎゅうぎゅうと頭を抱きしめられて、思わず笑ってしまった。
なんだコイツ。
やっぱり可愛い。
ああ、そういえば。
「愛してるんです、ナっちせんぱい」
可愛いって、「愛ス可(ベ)シ」って書くんだっけ。
ジンジンと痺れる様な脇の傷の痛みと、疼く無数の歯型。
狐塚が、オレに付けた、印。
「下校時間、ですね」
調子はずれのチャイム音。
現実に、戻る、合図。