バケーション

冷たい石に誓う

舗装もされていない坂道をジムニーで登る。
車一台分の幅しかない道の両脇は木や草が茂っていて、たまに車体を引っかいた。
その度に顔を顰める俺を浩紀が笑う。

いや、お前の車だし、傷つけるのは嫌だろう?

行き止まりで車を止めて、そこからは歩きで上る。
こんな不便な場所に墓を作るなんて、昔の人間の考えることは分からない。


「大丈夫か?」

「……何、とか……」

墓石の前でしゃがみこんでしまった浩紀の頭を撫でると、かすれた声が返ってきてドキリとする。
情事中の浩紀と同じ上気して汗ばむ肌と荒い息遣いに、不謹慎だとは思いつつも俺の中の獣がうなり声を上げていた。

「じいちゃーん、来たよー」

そんな俺の浅ましさに気づくこともなく、浩紀が墓石に話しかける。
中々来られなくてごめんねー、と、愛らしい笑顔で花を供える姿をほほえましく見守りながら、周りの草を刈る。
たまに様子を見に来てはいるが、この時期はどうしても草に埋まってしまう。

「ね、憲治?」

「ん?」

「結婚、俺らするから。ね?」

「ああ」

「許してね、じいちゃん」

……存命ならば、きっと許してなどもらえないだろうけれど。

浩紀のじいちゃんは、この地域一帯の地主だった。
うちも元は小作。
身分違いもいいところだ。

まあ、今でも身分は違うだろうし、そもそも男同士。
とんでもない頑固者だったと聞く彼に、許してもらえたはずがない。


「さてっ! じゃあ、行こうー?」

「ああ」

蝉時雨の中、線香が燃え尽きるのを見守って、坂道を下りだす浩紀の後ろから、墓を振り返る。

俺と浩紀の他に墓参する人のいない墓は、つくりは立派だけれども寂しげだ。

幸せに、します。
俺たち、幸せになりますから。

一族中から煙たがられ、ただ一人の孫にしか気に掛けてもらえない孤独な老人に誓う。

あなたの大事な浩紀は、必ず幸せにしてみせます。


「っにゃああ!」

「おおっ、大丈夫かよ……」

躓いた浩紀を後ろから抱きとめる。
えへへ、と照れたように笑う浩紀に、ちゅっと口付けた。

「?」

「誓いのキス」

「……! うん!」

俺からも、と浩紀に熱烈なキスを仕掛けられて、静まっていたはずの獣が頭をもたげる。
悪戯な笑い顔で俺を覗き込む浩紀の耳たぶに歯を立てて、家に帰ったら覚えてろとささやくと、帰る前でもいいのに、と赤い舌がぺろりとのぞいた。


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