バケーション

白い素肌に煌めく雫

浩紀の内側から己を抜き去ると、名残惜しそうな瞳が俺を見上げた。
上がりに押し付けられて背中が痛いだろうに、まだ足りないらしい。

「風呂に入ろう」

「うー」

「ほら、べたべた」

涼しかった土間も、俺たちの熱気で蒸し風呂のようだ。
このまま抱き合っていられたら幸せだけれど、触れ合う浩紀の素肌がひんやりと感じるくらいに暑い。
この暑さに弱い恋人を熱中症にさせる訳にはいかない。



明るい昼間の風呂に浸かった浩紀が目を細めてため息をついた。

「何時に着いたんだ?」

「何時かな。空港から直接来たよ」

「時差ボケ?」

風呂桶の縁に顎を乗せて、体を洗う俺をぼんやり見ている浩紀は眠そうだ。

「んーっていうより、寝不足かな。ぎりぎりまで仕事してたから」

「そうか。そんなに俺に会いたかった?」

「Sure. あ、何? 憲治はそうでもなかったって?」

ぷくーと膨れてみせる恋人は、確か俺の一つ上だったはずなんだが、どうしてこうも子供っぽいのか。
それが似合うのが不思議だ。

「まさか。会いたくて、会いたくて。浩紀不足で干からびる所だった」

目と言葉に力を込めてそう伝えると、嬉しそうに微笑んだ頬がピンクに染まる。
ちゅっとその頬にキスをすれば、もう、と怒られた。

「またシたくなる」

「最初から飛ばすともたねえぞ」

「憲治が?」

「はっ、まさか。お前だよ、お坊ちゃま」

ちらりと睨んで来る目元が赤くて、色っぽい。
その細い体を抱き潰してしまいそうで怖いくらいだと言ったら、浩紀が満足げに微笑んだ。


昔ながらのステンレスの風呂桶は狭い。
俺が入ると、ざばあとお湯が縁からこぼれる。

ふう、と親父くさいため息をついて、俺を見つめる浩紀を抱きしめた。
ぎゅっと俺の体に絡み付いてきた腕の力も利用して、抱き上げながら立ち上がる。

「……え?」

「もう上せるだろ」

全身を桜色に染めた恋人の体から湯の雫が滴り落ちる。
キラキラと輝いて見えるのは日の光の所為だけじゃなく、俺の頭が完全にヤられているから、なんだろう。
眩しくてたまらない。


「お帰り」

「ただいま」


今更な挨拶を交わして、その間抜けっぷりに、二人して微笑んだ。


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