「
バケーション」
愛の言葉はあふれてこぼれる
俺の頭が追いつかない。
その秘書さんは俺の事を知っているって事か?
なんだ?
そのアドバイスは……全部知っているから、のアドバイス、だよな?
「不安だったんだ」
急に小さくなった声に浩紀を見れば、いつもふわふわとした笑顔を浮かべているその顔からは表情が抜け落ちていた。
無表情になるとまるで人形のような童顔が、ぼんやりと中空を見つめている。
「浩紀?」
何が、不安なんだ?
何がそんなに、お前を悲しそうにさせている?
「でも、ね、憲治が結婚してくれるって言うんだもん、やっぱりSarahの言うとおりだった」
ぱっとこちらを振り向いた浩紀には何時もの笑顔が浮かんで、見間違いだったのだろうかとすら思う。
だけど……。
「浩紀? どうした?」
「うん」
「どうした?」
微かにその笑顔が歪む。
「憲治? 俺のこと好き?」
「そりゃ、好きだよ」
「愛してる?」
「愛してる」
「I see. ……知ってるんだけど」
「だけど?」
いつもならば、俺が愛を囁けば弘紀は幸せそうに笑う。
その顔を見て、俺が幸せになってしまうくらいに、幸せそうに笑う。
でも今は……。
「どうした? 泣くなよ」
涙が、ほろりと毀れた。
その大きな目の淵から、ほろり、ほろり、と。
「一緒にいたい」
「ああ」
「ずっと一緒に」
「うん」
「俺を愛して。一生。……ずっと。愛して」
「愛してる」
「うん……うん……」
不安にさせたのは、俺か?
お前にそんな顔をさせているのは俺か?
浩紀の気持ちを疑っているわけじゃない。
でも、俺は浩紀を待つしかできない。
この土地で俺は生きて、そして骨を埋める。
何もかも捨て去って、浩紀と行けばいいのだろうとわかっている。
でも、それはできない。
だからこそ、お前を縛りたくないと思う。
俺の気持ちで、浩紀を縛り付ける事はしたくないと思う。
天女の羽衣を隠すような間抜けな男になりたくないだけだ。
「俺も一生、憲治を愛してる。誓うよ」
涙を流しながら微笑んだ浩紀は、とんでもなく綺麗で、俺はお前に何度惚れたらいいんだろうかとため息が漏れそうだった。