「
巳年のヒメハジメ」
03
辰族の青年──竜真がにっこりと笑顔を浮かべた。
「いえ、私も、もう一年役にあたることになりました」
「……は?」
何を言い出すのだろう。
青年の笑顔をまじまじと見つめてしまう。
この仕事は一年間で任を解かれる筈だ。
大晦日に次の干支の神官が登ってきたら、役を終えて下山するのだと聞いている。
二人で任につく筈がない。
それに、次は巳年なのだから、辰がいたらおかしいだろう。
「えっと?」
「はい!」
「来年は巳年です」
「いいえ」
「?」
「今年が巳年です。明けましておめでとうございます」
「えっ? は…………? …………ぁ。あ! ……えぇっ!?」
年が明けている!?
私が意識を失っている間に年が明けてしまったと、そういうことか?
「新年?」
「はい」
「巳年?」
「はい」
「日の出は?」
「先ほど登りました」
「うわっ……マジかぁ……」
長い時間意識を失っていたこともショックだが、この仕事で唯一の神事である年越しをこなせなかったことに動揺してしまう。
ただ、起きているだけのことができなかったなんて……。
本家にどう言えば良いのか。
「大丈夫です。私がいましたから」
頭を抱えた私を力強い声が慰めた。
年若い青年に対する自分の不甲斐なさに余計落ち込むが、無理に笑顔を作る。
「ありがとうございます」
「とんでもない! おかげで家に帰らずにすみました」
ニカッと歯を見せる竜真に首を傾げる。
「この神殿の門は年に一度、大晦日にしか開かないんです。だから、私ももう一年ここに留まります」
「! それは! 本当に申し訳ないっ!」
私の所為でこの青年が帰れなくなってしまったということか。
何と言うことだろう……。
重ね重ね、自分のダメさ加減が嫌になる。
「いえ! 本当に家に帰りたくなかったので! 克巳さんには感謝してます」
大きな掌にぎゅっと手を握られてぎょっとした。
「帰ると無理やり結婚させられる筈だったんです。本当に良かった……」
心底嫌そうな顔をする竜真に私は頷くしかない。
「一年、よろしくお願いしますね! 二人なら楽しく過ごせそうだ」
「!」
断言しよう。
私のフラストレーションが爆発する日はそう遠くはない。
そう思っていた私が、竜真に襲われるのは15日後のこと。
「松の内は我慢しました」
「…………我慢……? え?」
「一目惚れです」
「はぁ?」
神様……なんか、ほんとすみません。