「
巳年のヒメハジメ」
02
心地良い。
暖かく柔らかなものに包まれて、心まで温もりに満たされていくようだ。
室内の明るさと、人の動く物音、それから食べ物の美味しそうな香りに誘われて重たい瞼を持ち上げた。
一番に目に入ったのは見知らぬ天井。
それから体を包む上等な寝具。
自分の家ではない。
瞬時に記憶を辿って、自分が神殿の入り口で意識を失ったことを思い出した。
辰族の青年がベッドまで運んでくれたのだろうか。
一族の体質とはいえ、何とも情けない。
控えめノックが聞こえて、部屋の扉が細く開かれた。
若い男がそっと顔を覗かせる。
「あっ!」
ベッドに横たわる私と目が合うと、ぱっと破顔した。
その笑顔はとても魅力的で思わず見惚れてしまう。
「良かった! 起きなかったらどうしようかと思ったんだ」
「すみません。運んでいただいてありがとうございました」
もそもそと上半身を起こして礼を言う。
年の頃は成人を迎えたばかりだろうか。
辰族らしい恵まれた体型と、溌剌とした佇まいがおじさんには眩しい。
青年は、子供のような笑顔を浮かべて部屋に入ってきた。
「!」
「うん、体温も上がってきた」
突然、大きな掌に顔を挟み込まれた。
目の前には青年の整った顔。
ジクリと腰に熱が集まる。
私の下半身は実にインモラルだ。
したい時にする。
欲情したらば、吐き出したい。
決まった相手を作ると好きなときにできなくなってしまう。
それが私には耐え難くて、独身を貫いてきた。
特に好みなのは卯や酉の女性だが、他の種族でも、男でも、欲を満たすことができればそれで良い。
この守り役に決まってからは、あまり人と触れ合うこともなかったため忘れていた欲望が体の奥からわき上がる。
この青年はベッドの上でどのように乱れるのだろうか。
私の淫蕩な大脳が勝手に想像を巡らせ始める。
しかし、ここは神聖な場所。
そしてこの青年は12族の中で最も神格の高い辰の、神官なのだ。
いくら私でもそのくらいは弁えている。
「ええと、辰の……」
「はい。竜真と言います。よろしくお願いします」
「えーと、はい。克巳です。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いえっ! 全然! むしろ……ありがたいというか」
「? あの、もう大丈夫ですので、あとは私にお任せください」
そう、早く下山してしまえ。
色々世話になって感謝してはいるが、人さえいなければ私も平穏に過ごせる。