師走の佳人



一昨年の12月24日は、嵐のように過ぎていった。

私は四月の入社時に家を出て、勤務地の直ぐ側にある寮に住んでいた。
冬休みの接客業の過酷さに無我夢中の数日間。
寮に帰れば倒れ込むように寝入り、目覚めれば慌てて出社。
地獄だ。

そんな訳で、正月明けにやっとお父さんに連絡を入れた。

そこで初めて、年末の忘年会の帰りに怪我をしたことを知って驚いた。
会社の部下にお世話になったと言われ、申し訳ないやら、恥ずかしいやら。
急いで駆けつけると、少しやつれたお父さんの横であの男が楽しげに笑っていた。

お父さんが「大丈夫だよ」と私に笑顔を見せる。
その顔が何だか切なくて、仕方ないとは言え、家を出たことを後悔した。




昨年のホワイトクリスマス。

ずっと元気がなかったお父さんも、その頃にはすっかり落ち着いて楽しげだ。
抱えていた仕事の問題が解決したのだとあの男──津田さんから聞いた。

そう言う私だって、仕事も恋愛も順調。
満ち足りていた。




今年も12月を迎えた。
今年のクリスマス、今日は私にとって大切な記念日になる予定だ。

そっとお腹に手を当てると、思わず微笑みが漏れる。
報告したときの彼の喜びように安心と幸せをもらった。
次はお父さんからそれをもらいたい。

「ねえ、お父さんどんな顔するかな」

「あははっ、きっと驚くね」

「んふっ。目をまん丸にしてね。」

暖かい日差しを受けながら、彼と待ち合わせて家に向かう。
家ではお父さんがそわそわしながら正体不明の「娘の彼氏」を待ちかまえているはずだ。

「順番が逆になっちゃってごめんね」

おなかに置いた手の上に彼が手を重ねた。
そこからじんわりと幸せが広がって行くような気がする。

「大丈夫! お父さんもきっと許してくれるよ」

もちろん驚くだろうが、実ったばかりの小さな小さな命を祝福できないような人ではない。
たった二人だった家族が突然倍になる喜びに勝る物はない筈。

「そうだね……。正樹さんの息子になれるなんて、ほんとに嬉しいよ」

彼が満面の笑みを浮かべた。
綺麗な綺麗な笑顔。

「ふふっ、ほんと津田さんって、お父さん好きよね」

「そりゃあ!」

津田さんが眉を上げておどけてみせる。

「副店長は僕の理想だからね!」

「買いかぶりよー」

二人の笑い声が高い青空に舞い上がっていく。

その角を曲がれば正面が我が家だ。

24日には家族三人でケーキを食べよう。
クリスマスと、新しい家族が加わった日のお祝いに。


幸せな期待に弾む鼓動が心地よかった。


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