「
師走の佳人」
娘
6年前の12月24日、綺麗なサンタがやってきた。
リクルートスーツを着たそのサンタは、プレゼントの入った白い袋ではなく真っ赤な顔をしたお父さんを抱えていた。
勤め先の忘年会、一杯のビールで伸びてしまったらしい。
日ごろお酒を飲まないお父さんは、すごくお酒に弱かった。
そんな事中学生だった私が知る由もないし、例え知っていたとしても、関係ない。
ただただ、肉親の醜態が恥ずかしかった。
顔を真っ赤にして、お父さんの部下だというその若い男に何度も謝った。
その人は、モデルのような綺麗な顔に笑顔を浮かべて私を宥めてくれた。
次の年の12月24日、私は高校に進学して遅い反抗期を迎えていた。
昨年と全く同じ、泥酔状態のお父さんを抱えた男を玄関で迎えた。
湧き上がる耐え難い怒りに動けないでいる私に、男は控えめに部屋まで連れて行くと申し出た。
頷くと逃げるように自室に戻った私の耳に、男とお父さんの楽しげな声の断片が届いた。
その囁き合いに無性に腹が立って、声を殺して泣いた。
そのまた次の年のクリスマスイブは、私は家にいなかった。
あのサンタは今年もお父さんの世話をしているのだろうか。
彼氏とベッドの中抱き合いながら、あの綺麗な笑顔がちらりと脳裏に浮かんだ。
3年前の高校最後の12月、就職先も既に決まり心が一回り大きくなった様な気がしていた。
ふらふらしながらも自分の足で歩くお父さんを支えて、男がやってきた。
私がドアを開けると少し驚いたような顔をして、その後すぐに、あの綺麗な顔に笑みを浮かべて挨拶された。
お父さんも意識があったし部屋に迎え入れて、お茶を出した。
上機嫌にトイレに向かう千鳥足を二人で見送りながら、初めて会話を交わした。
正確には覚えていない。
多分、お父さんを貶める事で感謝を伝えたのだと思う。
「しょうもない上司で、大変ですよね」とか、
「困った父ですみません」とか、そんな事を言ったんだと思う。
それから、多少の恨み言。
「いつもだらしなくて嫌だ」とか、ありふれた愚痴。
そんな私の言葉への男の受け答えが、何故だか脳裏に鮮明に焼きついて離れない。
「あはは、じゃあ、僕がもらっちゃっても良いですか?」
凄く綺麗な笑顔だった。
それに対して「どうぞどうぞ」「つまらないものですが」なんて、軽口で返したんだと思う。
時間が経つにつれておぼろげになっていく記憶の中、その男の声だけが切り取られたようにくっきりと浮かび上がる。