「
弱酸性のくせに」
01
鼻歌を浴室に響かせながら俺の体をスポンジで撫でていくこの男前は、大井健一、俺の恋人だ。
サラサラの黒髪と、爽やかな面相。
軽く鍛えられた体は、……美味しそう、ではある。
そんな営業課のイケメンエース君は、俺、杉山崇の小学生のころからの幼馴染だ。
高校からは別の道に進んだが、偶然同じ会社に就職するというミラクルが起こり……まあ、現在は恋人に落ち着いた。
「ご機嫌だな」
掠れた声が鼻歌を遮る
昨晩、鳴き過ぎて声が出ないとか、恥ずかしすぎる。
いい歳してガッつき過ぎたと、かなり反省。
繁忙期が落ち付いて来たと同時に期末が来るウチの会社は鬼畜だ。
優秀な営業ほど受注後の処理に追われ、その煽りを俺ら経理がくらう。
毎年この時期は、経営陣を呪いながらパソコンに向かう。
そんな締めもやっと一段落ついて、二か月ぶり? の逢瀬だ。
お互い、休日返上のサービス残業続き。
家には気絶するように眠りに帰るだけで、正直溜まっていた。
大井の家に着くともつれるようにベッドに倒れ込み、そりゃもう、獣のようにお互いをしゃぶり尽く勢いでセックスに突入。
例え地震があったとしても、気付かないんじゃないかって位に揺らされた。
思い返せば、リミッターが壊れていたんだとしか思えない。
喘ぐわ強請るわ、我ながらびっくりするような痴態をさらした。
珍しく本当に溜まってたんだ。
……仕方ない。
トハイエ。
日頃座りっぱなしの経理が体力勝負の営業の基礎体力に敵う訳もなく、俺は途中で気絶していたらしい。
始発が通る遮断機の微かな音が最後の記憶だ。
起きたら昼だった。
そして最悪だった。
大井の太い腕が巻きついていて重たい。
退かせようとするが、声は出ないし、体の節々が痛い。
ベッドは惨状だし、肌がべた付いて気持ち悪いったらない。
「──……あたっ! あ、たかし……おはよう」
イラついて腕に噛みつくとびくりと起きたイケメンが、黒目がちな目を瞬かせて、微笑んだ。
くそう。
こんな時まで爽やかなのかよ。
取りあえず風呂に入りたいと伝えると、抱きかかえられ今に至る。
普段ならば、そんなふざけた事をしやがったら、みぞおちに蹴りの一発でも入れるところだ。
しかし、今日は体がかったるくて半端ない。
仕方がないから素直に抱き上げられてやった。