「
奏でて?」
04
洋二の舌打ちに泣きそうになりながらももがく。
「離してっ! 洋二君、お願い、だからっ!」
「なんでだよっ! 急に」
洋二の腕の中が心地よくて本気で逃れようとしていない。
秀和はそんな自分を情けなく思う。
それでも、形ばかりの抵抗は洋二を苛立たせた。
「! あア……、離してっ!」
両手をひとまとめにされて洋二の片手に拘束された。
洋二のもう片方の手が器用に秀和のベルトを外して抜き取る。
「洋二君!」
悲痛な呼びかけなど気にもせず、洋二はそのベルトを秀和の両手首に巻き付けた。
首に下げていたサックスストラップにベルトのバックルを引っかけられると、身動きが取れなくなった。
「……なんで……」
秀和は、凶悪に歪んだ愛しい顔を凝視する。
秀和の情けなく下がった眉尻の下には官能のかけらを滲ませて潤む瞳、唇を真っ赤に染める血が一筋顎に伝っている。
嗜虐心をくすぐるその顔に、洋二の喉がゴクリとなった。
洋二の唇も秀和の血液が混じる唾液で怪しく光っている。
それを舐めとる仕草が肉食獣の舌なめずりを連想させて、秀和の体が淫靡な期待にひくりと震えた。
「……えろ……」
「! ……っぐ……」
洋二の小さな呟きを耳にして、秀和の顔が歪む。
軽蔑された……。
こんな状況を内心喜んでいるのを見透かされたのだろうか。
自らの浅ましさを自覚しているだけに目の前が暗くなった。
「血って、興奮するかも……」
秀和の目に新たに浮かんだ涙の意味に気づかず、洋二は声を上擦らせる。
何かに誘われるように右手を秀和へ向けて伸ばした。
「! や! だっ!」
「!?」
動きが制限された秀和の手が、愛しい手を振り払う。
ぱしっと思った以上に大きな音がした。
これ以上醜態を晒したくないという秀和の必死の抵抗に、一瞬呆然とした洋二の表情が次の瞬間に凍り付いていく。
「…………あ」
ヤバい。
すっかり目が据わってしまった洋二が恐ろしい。
無意識に後退りしようとした秀和の二の腕が強い力で縫い止められた。
「……った……」
「逃がすかよ」
吐き捨てるような洋二の低い声が頭上から降ってくる。
「! ぁ……」
身が竦んでいる秀和のスラックスが下着と一緒に一気に膝まで下ろされる。
ぽろりと零れた性器が冷たい外気に触れてピクリと揺れた。