「
誕生日に」
01
高く青い空の下、秋風が俺の頬を擽る。
何て長閑なんだ。
目の前の新しい道路の周りは田んぼと畑と、まばらな民家。
人っ子一人通りゃしない。
こんなに長時間、何もしないで座っているなんて、滅多にない。
アホ面を晒しすぎたかと慌てて隣を見ると、見慣れた横顔がやっぱりアホ面で空を見ていた。
「なあ、こんなに暇でいいのか?」
意を決して話しかける。
「んあー? まあ、車が通らなきゃやる事ないしな」
交通量調査のアルバイトを持ちかけてきたのはこいつだ。
別に、俺じゃなくても良かったのだと思う。
数日前こいつのケータイに依頼が入った時、数人の仲間でカラオケしていた。
誰か誘えないかという雇用主の相談に、たまたま隣にいた俺が誘われたという。
ただそれだけの理由。
まあ、隣にいたのはたまたまじゃねえけどな。
そんな事はこいつの知り得る事じゃねえ。
「てきとー」
「今回はなー。冬とか夜とか、雨とか、車多いとか、結構大変な時もある」
「ふーん」
低い声が心地よい。
何かを思い出したのか、少しだけ眉が下がった。
他に見るものもないから、隣の角刈りをじっと見つめる。
嘘だ。
見たいから見つめている。
厳つい鼻梁が整っているのも、耳の形が良いのも、綺麗に刈上げられたうなじが妙に綺麗なのも、今は俺だけが知っている。
この角度からの景色が俺の特等席。
「暇?」
くるっとこちらに顔を向けられて、慌てて視線を逸らした。
変に思われたんじゃないかと、心臓がばくばくいっている。
「んにゃ、ぼーっとしてるの好きだし」
「悪いな、急に誘って」
「いやいや、バイト代出るし」
特に小遣いに困っているわけじゃないけど、この程度の仕事で稼げるのならいい話だろう。
何より俺にとっては、こいつの隣に座っていられる、その理由があるってだけで幸せだったりする。
高校最後の誕生日がいい日になった。