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「わたしの今月の運勢は、……7位ですって!」
色鮮やかに彩られた雑誌のうすいページとしばらく睨めっこをしてから、彼女は至極楽しそうに言った。占いの話はそれだけに留まらず今度はラッキーアイテムやアドバイスなんかを細かく説明される。僕はそれにいちいち相槌を打ちながら適当なタイミングで頷いていた。本当は、星座占いや血液型占いなど占いの類いに僕はあまり興味がない。けれどそんなことを態度に出せば春奈は次から僕にこの話をしてくれなくなるだろう。女の子は皆占いが好きで、彼女にはたくさんの友達がいるから。それに加えて、優しい彼女のことだから興味のない話をして僕に嫌な思いをさせていたんじゃないかなんて余計なことを考えかねない。
「でも7位って微妙じゃない?」
「うふふ。あ、照美さんは5位みたいですよ」
「そう。…僕のところにはラッキーアイテムとか書いてないの」
手を伸ばしてぺらぺらの紙を捲る。ちらりと見えたそこには派手なロゴの、しかも細かい字が所狭しと並んでいて頭が痛くなりそうだった。同じくらいの大きさだって活字ならすらすら読めるのに不思議なものだと思う。しかも春奈にはそれが苦になっていない様だし。そんなことを考えながら文字を目で追っていると、待ってましたとばかりに彼女が眼鏡の奥の大きな目をきらきらさせた。
「照美さんの今月のラッキーパーソン、眼鏡を掛けた人なんですよ」
「眼鏡」
「はい。ほら、わたし今日眼鏡じゃないですか」
「君が、僕のラッキーパーソンになるってこと?」
そう言うと彼女は少し恥ずかしそうにはにかんだ。僕はよく中性的な容姿をしていると言われるけれど、そのとき彼女が顔に浮かべたような微笑はどうやっても出せないと思う。女の子特有の柔らかい表情は、淡い色をした砂糖菓子を積み上げたみたいに複雑で優しいバランスをしている。そういうゆるやかな表情をした春奈が僕は好きだった。だからそんなふうに愛らしいものをレンズの向こうに閉じ込めておくのが勿体ないように感じられて、赤いフレームに手を掛けた。
「照美さんっ、わたしラッキーパーソンじゃなくなっちゃいます!」
「いいよ、そんなの」
「でも、」
「いいんだ。君は眼鏡がない方が可愛いから」
顔を上げて見るとやっぱり彼女は素顔でいる方が魅力的で、僕のためにラッキーパーソンでいてくれようとした可愛らしい努力は折角だけど無駄になってしまった。ごめんね、と心の中で謝っておく。レンズの分だけ近付いた距離で見る彼女の目が戸惑ったようにゆらゆらと揺れていて、それもまた可愛い。薄赤く色付いた頬を指先で突くと今度は悩ましげな視線に睨まれる。
「ふふ。…好きだよ、」
今僕はそんな彼女に好きと言った。ラッキーパーソンではない彼女に。例えば聖書だったりお告げだったり色とりどりの印字だったり、自分以外のものに頼るのは勿論自由だ。けれど、自らが欲しいと思うものを確実に手にするために選択肢を少しでも減らすのだって僕の自由でしょう。




/ぼくはきみの世界になりたい
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