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人様の顔をあんまりじろじろ見るんじゃありません、なんて、小さい頃はしつこく親に言われていたものだ。昔から僕には好き嫌い問わず気になる人をじっと見つめてしまうという困った癖があって、それには今までに随分苦労させられてきた(不良に絡まれた数なんか、僕は友達の誰にも負けない自信がある)。その悪癖はすっかり直ったものだとばかり思っていたのにどうやらそうではなかったらしい。その証拠に今も僕はこうして同居人の人形みたいな横顔をちらちらと盗み見している。ちらちら、という辺りから僕の成長を悟ってほしい。彼の、長い睫毛に縁取られた大きな目は先ほどからテレビの京都特集に釘付けだ。「神様」が京都のひとつやふたつも行ったことがないなんて少しおかしいよなあと思ったが彼の名誉のために黙っておこう。あ、今ちょっと笑った。
残念なことに照美はそういう表情をあまり見せない。一緒に暮らしていてもなかなかお目にかかれないのだから、ポーカーフェイスもここまで来ると武器だ。普段の顔でも十分だけど笑ったらもっと可愛いのに。あとその紅茶、大分余ってるみたいだけどそろそろ冷めちゃってるんじゃないかなあ。テレビのおかげで放置された紅茶からは最早何の熱も感じられない。
「君、うるさいよ」
そんなことをぼんやりと考えていると、照美の張りのある声が鼓膜にぴしゃりと飛んできた。うるさい、だって。照美が怒るのを避けるために極力静かにしていた僕の努力にはあんまり意味がなかったようだ。さっきまで彼の意識を独り占めしていたテレビを見ると、青々としたグリーンが画面いっぱいに広がっている。ゴルフには特に興味がないらしい。
「なんで。静かにしてたじゃん」
「視線がうるさい。…分かっているよ、君の考えていることは。仮にも同居人がこの僕を性的な目で見るなんて無礼も甚だしいね」
「…………、えええ?」
照美はたまに自意識過剰だ。そんなに綺麗な顔をしているのだから無理もないけれど。反応に困っていると、彼は見惚れてしまうくらいにうつくしい所作で冷えた紅茶を飲み干した。ねえ、それ不味くないの。不味いって言ったら何か変わるのかい?はあ、何も変わらないけどさ。

「セックスは後で。約束だよ」
そう言って珍しく楽しげに笑った照美を僕はついに凝視してしまった。



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