(どうしてつよくなれない、)
どんなに乱暴な力で押し返してもその女々しい白い腕は微動だにしなかった。ただ俺が情けなく分泌するものはすべてそいつの手で不快な音を立てながら広げられ、加えて俺自身の中までごっそりと削ぎ落とされていった。痛い。目元が熱くなったのを誤魔化すために奥歯を思い切り噛み締めた。こんなにも近くにいる人間がその変化に気付かないわけがないのに、そいつは俺の抵抗なんか物ともせずに突き進んでくる。涙も血もぐちゃぐちゃになって、皆同じ液体だ。
(どうしてこんなによわい)
悔しさでできている、情けなさでできている。自分のことすらままならないのに俺とセックスしろなどとよく言えたものだと思う。名前を呼びたくてもそれすら叶わない。声が、嗄れてしまって。時折躊躇いを見せる互いの指先がたまらなくもどかしい。
「ん、あ」
昔、女というのは甘いばっかりの砂糖や触れたら崩れてしまうメレンゲなんかでできているのだと思っていた。だったら男は、俺やこいつは何でできている。カエルのようなゲテモノか。どんなに女のような澄ました顔をしていてもどんなにいい子ぶっていても俺の中を暴れ回るものがそれをはっきりと証明している気がした。それを思うと背筋が凍る。ああもう気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い、俺はいったい何を腹の中に受け入れているんだ。出来ることならもっと強くありたかった、こいつがしたいことを丸ごと受け入れてしまえるくらいに。
(おれはもう血のにおいなんて平気だ)
何があれば俺になる、何があればこいつになる。材料なんて誰にも分からない。けれど今、その作業が俺の中で確かに行われるような気がした。内側をぐるぐると巡るものをはっきりと感じる。俺と同じ男から生まれた材料、もしかしたら俺は俺の望むように強くなれるかもしれない。
(だけど、本当にほしかったのはこんなどろどろしたもんじゃなくて)
「ごめんね、痛かったかい」
「でも好きなんだ、好きで好きで仕方なかったんだ」