text | ナノ


「お腹すいた、ねえ、何か作って」
「……おまえなあ」
 こうして親しく付き合うようになってから気付いたことだが、聡明が服を着て歩いているような顔をした彼は意外と語彙が少ない。何か美味しいものを食べた時でもただ「美味しいね」と言うだけだしテレビでギリシャ文化の特集をやっていたのを見た時も「綺麗だね」と褒めるだけだ。それにいちいち文句をつける気は無いがこちらとしても拍子抜けしてしまう。何でもお見通し、みたいな顔をしている癖に。
 仕方なしに湯を沸かしながらそんなことを考えていると、後ろから「もしかしてまたカップ麺なの?」といかにも落胆しましたというような声が飛んできた。
「…嫌なら食べるなよ」
「いや、食べるよ。餓死したらいけないからね」
 照美が大真面目な顔で言うものだから笑っていいのかどうかも分からない。存外付き合いにくい人種である。自分でお湯も沸かせない癖に偉そうだよなあ、と思いながらも口には出さず(これも意外だったが照美の沸点は人より低い)、片手鍋からたった今沸いた湯をかたい麺の上に注いでいく。


「ごちそうさま」
 照美は胃袋が満たされたことで満足したのか幾分機嫌がよくなったように感じる。それでも矢張り語彙の少なさは相変わらずで、先程からずっとテレビで垂れ流しされている動物番組を見ながら「可愛いね」とか何とか言っていた。
「…照美、他には?」
「ほか、って?」
「ほら、何ていうか、…感想」
「何の」
「テレビとか、さっき食べたカップ麺の味とか」
 一度気になってしまうとなかなか諦められないのが人間で、気が付けば照美からもっと別の言葉を引き出そうとしていた。珍しく困惑した表情を浮かべながら照美はかるく首を傾げる。
「言わなくても守には分かっていると思ったんだけど」
「えっ」
「大体分かるようになるんじゃないか、これだけ一緒にいれば」
「……えっと、うん」
「君の前で飾る必要なんてないよ」
 ああもう、どうして。上手くいかないものだね、と涼しい顔ですぱりと言い切った照美はもう一度テレビへ視線を移す。ちょうど大きなライオンがぬらりとカメラへ迫ってきているところだ。その映像を見て「凄いねえ」と漏らした照美はやっぱり語彙が少なかった。




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -