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眠れないのならもういっそ目を覚ましてしまおう、といやに醒めた頭で枕元の携帯を握った。もう立派な依存性だなあと疲れた体で自嘲気味に笑いながら着信履歴を開く。目当ての名前は勿論一番上にあって、それだけで幸せになってしまう。遠慮無しに通話ボタンを押すと、ちょうど5コール目で眠そうな声が聞こえてきて何となく可笑しい。このまま会いたい、と言えれば楽なんだけど。

『……一之瀬、ねむい』
「俺はお前の声が聞きたいんだよ、」
 会いたい時に会えないなんてまるでロミオとジュリエット。身分も何も関係ないけれど、男同士という壁が抱き合うことをさせない。ああロミオ、あなたはどうしてロミオなの…なんて。雑魚寝していた床から起き上がって窓際のソファーにゆっくりと体を沈める。スプリングをいくらか長めに軋ませると、左側から『あ、いまソファー座った』と楽しげな声が聞こえた。
『気持ちいいんだよねえ、一之瀬んちのやつ』
「家来ればいつでも座れるだろ」
『そうなんだけどさあ―――』
「………あ、ちょっとマックス、外見てみてよ」
 わかった、という短い返事のあと少し間があって、何もないけどと気の抜けるような声で言われた。分かってないなあと苦笑してから、ううんと唸りながら腰を上げる。隙間から僅かに光を漏らしていたカーテンを一気に開けて、今日が満月であることを淡々と告げた。
『ほんとだ。……で、それがどうしたの』
「俺はね、狼男なんだよ。がおー、すごいだろ」
『ふーん、すごいすごい』
 信じてないだろと少し責めるように言うと松野は何がそんなに楽しいのかけらけらと笑い出した。
「食べちゃうよ、」
『……別にいいけど、…食べに来ても』
「え?」
 そんな爆弾発言を落としたあと、ツーツーと余韻を残して途切れた通話。全く、電子機器というのは役に立つのか立たないのか分からない。これからが大切なところだというのに。三分四十八秒、液晶がぴかぴかと光って時間を示す。けれど今はそんなことどうでもよくて、俺は苦情が来そうなくらい勢いよくソファーから飛び降りてから慌てて上着を羽織って走り出した。携帯が意味を成さなくなった今、頼れるのは自分の脚のみだ。


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