text | ナノ
グランとウルビダ


男の肌は病的に白かった。昔、それを心配したお父様が何度も病院へ連れていこうとしたのも知っている。事実私も気がかりだったし、血の気が失せた顔色を見ているとなんとも言えない複雑な思いに駆られたりもした。そして何より私が気に病んでいたのは、その薄い肌色の向こうで無数に息づく血管たちがヒロトの身体を蝕んでいくように見えてしまうことだった。普段はひっそりと伸びている筈の紫の根が思うままに存在を主張している。現実味の無いその光景は、人間の隠された汚い部分をまざまざと見せ付けられているようで気分が悪いのだ。だから私はヒロトと交わるのが好きではなかった。けれどそれとは反対に、抱き締められる、キスをされる、愛の言葉を交わす。これらのことは恥ずかしくはあるが嫌いにはなれなかったのである。貞操観念がどうとかそういうつまらない問題では、決して無い。
私達がエイリアとして戦うことになってから、ヒロトの――基グランの白さは更に際立つようになったと思う。単純に生活が不規則になったからかもしれないが、私にはそれが恐ろしかった。血管がぐるりと根を巡らせて彼と私を追い詰めるかのように蠢いている。しかし、だからといって私を抱くなとは言えなかった。彼がそうであるように、私もまた基山ヒロトという一人の人間をどうしようもなくいとしく思っていたのだ。

「おまえ、最近まともに食事を摂っていないだろう」
絶頂を迎えた余韻で上下する薄い胸板を眺めながら言う。グランは困ったように笑った。ムードが無いとでも言いたいのだろうが、私にはこの不健康な身体の方が余程ムードが無いように思える。白いのはシーツと精子だけで十分だ。
「食べてるよ、ちゃんと」
「ならどうしてこんなに血色が悪いんだ」
「俺は宇宙人だからね」
生まれた時から、ずっと。私ははっとグランの顔を見上げた。真っ白な腕がするりと髪を撫でて離れていく。お前は人間だろうという言葉が喉元まで迫り上がってから唾液と一緒に胃袋まで押し戻された。それを飲み下して私は漸く気付く。彼は誰よりもお父様の為に生きる覚悟でいるのだ。そして自己犠牲というもっとも尊いやり方で、その愛を貫こうとしている。皮膚の下に隠された本能に従って。まるで擬態でもするかのようにシーツにくるまった彼に、私は何と声を掛けていいのか分からなかった。喘ぎ声ならあんなにも簡単に出たというのに無様だと思った。性交のように理性と母性だけでどうにかなることばかりでは無く、だからグランは私に言葉を求めない。
けれどそれを理解しても尚、理性を捨て切れない私は身体中を覆う管の内側を人間の色で器用に隠す。本当に汚いのは私なのだ。枝分かれした血管がまた私を冷たく睨んで、ゆっくりと根を張らせた。


/陶器肌の矛盾

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -