室内にふわりと良い香りが漂う。
食欲を沸き立たせるその香りは、どうやらキッチンの方から流れてくるようだった。誘われるようにモルテは武器の手入れをやめ、そちらへ向かう。
もう昼だし、キリエが何か昼食を作っているのだろうと、そう思いながら。
「…………え」
「あ、お昼、もうすぐできますよ」
中を覗き見ると、その先に居たのは元世界救済委員会の獣人。モルテは無意識に顔をしかめた。
彼が仲間になってから数日。獣人である、という偏見からか、特に足を引っ張るでもない(逆に、相当な戦力になっている)というのに未だにモルテはナジャを信用出来ずにいた。
敵意を剥き出しにする事は無くなったとはいえ、嫌悪感が無くなる事はない。少し前、キリエに諫められたが、今の今まで「獣人は排除すべき存在」として認識していた、その先入観を拭いきれないのだ。
「……何であんたが」
「キリエが食材の買い出しに行っているので、代わりに。彼には及ばないとは思いますが、食べられなくはないと思いますよ」
モルテはますます視線を鋭くした。
獣人が、自分達の口に入るものを作っているなど、冗談ではない。だいたい、いつも笑顔を作っているこの獣人の事はどうしても信用出来ない。怪しい。笑顔の裏で何を考えている事やら。
「結構よ。私はいらないわ」
「……そう、ですか」
踵をかえそうとした、その時、うっかりナジャの尻尾がしゅん、と力を無くすのを目撃してしまいモルテはう、と後退る。姉気質のモルテは、こういった弱々しいオーラを発するものに、実は弱い。
散々迷い視線をあちこちに飛ばしていたモルテだったが、最後には諦めたように腰を下ろした。
「お腹が減っただけよ、それだけだから。まずかったら承知しないわよ」
「あ、は、はいっ!」
急に元気を取り戻したナジャに、不覚にも笑ってしまう。その時恐らく、モルテはこの獣人に対して、初めて笑顔を浮かべたのである。
ナジャの尻尾が嬉しそうに揺れた。



2008.09.05
2010.08.10 再up


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