世界撲滅委員会と手を結んでからというもの、何やら周りの視線が痛い。
モルテという少女は言わずもがな、トッピーというクマのヌイグルミのような獣人も疑わしげに睨み付けてくる。低い位置からなので恐いとも思えないが。
彼らは良い、視線の種類が分かる。何といっても、敵意が剥き出しになっている。これは分からない方が可笑しい。

どうにも解せないのはもう一人の世界撲滅委員会、キリエという少年の視線だ。
敵意の含まれない、どこかぼおっとしたような、よく考えてみれば自分を見ているのでは無いのでは? と思われるような、そんな視線である。
そうは思えど、行く先々で彼の視線が向けられれば、自意識過剰とも言えないだろう。
「……私に、何か言いたい事でも?」
「え? あ、あぁ! すみませんっ!」
何故か謝られた。
「謝らなくても良いのですが……、で、用件は?」
「あ、そのぉ、えっと……」
きょろきょろと辺りを見回してから、キリエはぐっと距離を詰めて小声で言った。
「実は頼みがあるんですよ」
「頼み、ですか」
そういう彼は真剣な顔をしていた。
「内容にもよりますが……、取り敢えず言ってみて下さい」
「あっ、はい!」
えーっと、その、あの、と暫くもじもじとしていたキリエだったが、意を決したのか顔を上げてしっかりとこちらを見た。





「尻尾、触らせて下さい!」





「……は?」
「だから、尻尾」
「あぁ、分かってます。聞こえなかった訳ではありません」
思わず聞き返してしまい、それに対し返答をしようとしたキリエをやんわり押し留める。
そう、聞こえなかった訳ではない。理解出来なかったのだ。
「……理由をお聞きしても?」
「ナジャさんの尻尾って、凄くふさふさしてそうで、触ってみたかったんですよー。あ、モルテとかには内緒にして下さいね、怒られるから」
きらきらと瞳を輝かせ、キリエは尻尾尻尾と繰り返した。うずうずしているのが手に取るように分かる。
丁度ソファもあったので、そこに腰をおろした。
「……こんなものでよろしければ」
「わっ! い、良いんですか!? ありがとうございます〜! じゃあ早速!」
尻尾を差し出してやれば、キリエは早速飛び付いてきた。思ったよりも優しげな手つきで尻尾を撫でる。
「わぁ……やっぱりふさふさしてるー。手入れとかしてるんですか?」
「手入れ?」
「あ、いえ。分からなければいいんです。……そっかぁ、手入れ無しでこの手触り……」
キリエはぶつぶつと何事か呟きながら自分の世界に入ってしまった。

――しかし、心地好いものですね……。

尻尾を撫でられながら、目を閉じていると、自然と眠りの底に落ちてしまう。
誰かが自分を呼んでいたような気がしたが、迫り来る睡魔には勝てなかった。





「……で、ナジャさん! ……あれ?」
自分の世界から戻ってきたキリエは、にこにことナジャに話し掛けたが、相手が寝ている事にやっと気付いた。
「わー、可愛い」
寝顔を覗き込むと、いつもの知的な美人、という彼の姿とはまた違った印象を受ける。
「僕も眠くなってきちゃった……」
ぱたん、とそのままナジャに寄り掛かるようにキリエも眠りについた。



モルテに発見された二人が(というかキリエが)、怒りの鉄槌を食らうのはその数分後の話。



2008.08.26
2010.08.10 再up


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