赤々と燃え盛る炎が私達を囲む。
こんなに近くで燃えているというのに暑さを全く感じない。この部屋に来るまで炎の中をずっと駆けてきたから感覚が麻痺しているのかもしれない。
はぁはぁ、という荒い呼吸が耳につく。自分のものだけではない。背中合わせに座る主君、織田信長のものも混じっている。
「何が可笑しい」
「ふふ、だって、殿様も呼吸が乱れてるから」
昔、手合わせをお願いした時。呼吸ひとつ乱さずに楽々と負かされてしまった事を思い出す。
「最期、なのかな」
「……ふん」
「お守りできなくてごめんなさい」
ぎゅ、と刀を握る。初めて信長に貰った刀であった。いくつもの戦場を共に切り抜けた。
美しかった紅の飾紐は、今や色が落ちてぼろぼろになっている。しかし、かさねの目には昔の鮮やかな姿の刀が映し出されていた。
「今からでも遅くはない。逃げたらどうだ」
「主を置いて? そんな事出来ません。だいたい、決めたんですよ、最期の時まであなたの傍を離れないって」

足音が迫る。

あぁ、もうすぐ最期。

ごめんね、正宗、虎徹……。

「草薙かさね」
「……は」
「お前は、優秀な部下だ」
え、と振り返ろうとしたが、かさねの体は宙を浮き、炎の中へ投げ込まれた。焼かれて脆くなった木の壁が抜け、広い空間に出る。
「抜け道……」
「そこから逃げろ。時間が無い」
「な、んで……っ! 早く殿様もこっちに!」
「お前は優秀だ。なくすのが惜しくなった」
にや、と笑う顔は、悪戯っ子のようで、こんな時だというのに呆れてしまう。
「早く! 私は、あなたの傍を……っ」
「離れない? は、小娘が何を。おれの傍に居座れるとは思うな」
壁が崩れ落ち、信長との間が断絶される。
いやだ、と叫んだ気がする。手が熱い。焼けた木を掴んでいるから当然か。
意識が朦朧としている。面白いものを見せてもらった、と殿様が言った。



最期に聞こえたのは、殿様が好んだ歌だけ。





2009.03.13
2010.12.06 再up


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