「いつ見ても、すごいなぁ……」
ショルダーバッグを握りしめ、健二はほぅ、と感嘆の溜め息を漏らした。
健二が見上げているのは陣内家の巨大な門。どう考えても自分は場違いだとしか思えない佇まいに、思わず踵を返したくなってしまう。どう考えても場違いな自分が、何故こんな場所にいるのかといえば、それは、去年の出来事があったからに他ならない。
昨日のことのように思い出すことのできる、あの出来事。鮮明にあの時のことが思い出せるにも関わらず、健二はどうにも実感がわかずにいた。あまりにも現実離れしすぎていて、「平凡」を地でいっていた健二にとっては、本当に雲の上のような出来事だったのだ。
憧れの先輩。とんでもなく大きな家。たくさんの親戚一同。恋人騒動。世界を巻き込んだサイバーテロ。数字の羅列。花札。家族での食事。……おばあちゃん。
全てが全て夢のようで、夢見心地のままぼんやりと自宅に帰ってきて、そこでやっと一息つけたようなものだった。
しかし、あの事件が起こったからこそ、今、ここにいる。この家には自分を「家族」だと言って迎えてくれる人達がいる。
健二は意を決して巨大な門をくぐり、玄関の戸を開けた。
「こっ、こここ、こんにちはーっ!」
「……来てたんだ、お兄さん」
「うわぁあっ、佳主馬くんっ!?」
一気に戸を開けて叫んだ挨拶に、即座に反応したのは、丁度そこを通りかかったであろう佳主馬だった。缶ジュース二本を片手に、いつもと変わらぬ表情の無い目で健二を見ている。目の前に誰かいるとは思っていなかった健二は驚いて一歩あとずさってしまった。
「テンパり過ぎでしょ」
はいジュース、と放られた缶を、健二は取り落としそうになりながらも受け取る。
「でもこれ佳主馬くんの」
「もう一本あるし。ついでだからあげる」
佳主馬は手に持っていたもう一本の缶ジュースをゆらゆらと振りながら言った。
「あ……ありがと」
「ま、上がれば」
「あ、うん。お邪魔します」
「ん。じゃーね、お兄さん」
佳主馬は、健二が返事をする間もなく手をひらひらと振って奥の部屋へゆったりとした足取りで戻っていってしまった。その後ろ姿を呆然と見つめていた健二は、背後から急にかけられた声に飛び上がった。
「健二くーん、いつまで玄関にいるのよ」
「わわ、夏希先輩」
「ほーら、おばあちゃんに挨拶挨拶!」「あっ、でもおばさん達への挨拶もまだで」
「いいのいいの。おばさん達今お買い物行ってて暫く戻らないらしいから」
折角健二君が来たっていうのにね、と夏希は呆れたような顔で言った。そんな、僕はそんな事気にしませんよ。と、健二がそう言おうとした瞬間、夏希はそれに、と言葉を続けた。

「健二くんも早くおばあちゃんに挨拶に行きたいんでしょ?」

夏希は意地悪くにやりと笑い、固まったままの健二の背を押した。





*******後書き***
続く、かもしれない。

2010.11.30


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